「M&Aコンサルタントは激務だが年収が桁違いに高い」と耳にして、実際のところはどうなのか気になっていませんか。

日本ではM&A件数が過去最多を更新し、いまや大企業だけでなく中堅・中小企業にとっても“日常的な経営戦略”となっています。人手不足や事業承継問題、海外展開の加速を背景に、M&Aの最前線で活躍するプロフェッショナルへの注目はかつてないほど高まっています。

本記事では、最新の市場動向を踏まえながら、M&Aコンサルタントの仕事内容、FAS・戦略ファーム・仲介の違い、求められるスキル、リアルな年収水準、そしてその後のキャリアパスまで体系的に整理します。コンサルティングファームを目指す方が「自分はどのポジションを狙うべきか」まで描ける内容をお届けします。

日本のM&A市場の現在地:過去最多更新が意味するもの

2024年の日本M&A市場は、歴史的な転換点に立っています。株式会社ストライクおよびM&A Onlineのレポートによれば、2024年の適時開示ベースのM&A件数は1,221件に達し、リーマンショック前の2007年(1,169件)を上回って17年ぶりに過去最多を更新しました。前年比でも14%増と、明確な拡大基調にあります。

一方で、取引総額は約10兆5,397億円と2年連続で10兆円を超えたものの、前年比では13.9%減少しています。この「件数は最多、総額は減少」という構図こそ、現在地を読み解く鍵です。

指標 2024年実績 示唆
件数 1,221件(過去最多) M&Aの裾野拡大
取引総額 約10.5兆円(前年比▲13.9%) メガディール不在

超大型案件が減少する一方で、中堅・中小規模の案件が積み上がっていることを意味します。これは、M&Aが一部の大企業の特殊イベントではなく、あらゆる企業規模にとっての「経営の選択肢」として定着したことの証左です。

今、日本ではM&Aが「非日常」から「日常」へと完全に移行しました。背景には、人口減少による国内市場の縮小、慢性的な人手不足、そして後継者不在による黒字廃業リスクといった構造課題があります。中小企業庁が中小M&Aガイドラインを改訂し、第三者承継を後押ししている事実も、この流れを制度面から裏付けています。

特に注目すべきは、人材確保を目的としたAcqui-hiringの増加です。ITや物流分野では、採用よりも企業ごと取得する方が合理的という判断が広がっています。M&Aは市場シェア拡大の手段であると同時に、「時間を買う」戦略へと進化しています。

また、アウトバウンドM&Aも存在感を増しています。2024年には積水ハウスによる米M.D.C. Holdings買収や、ルネサスエレクトロニクスによる米Altium買収といった大型案件が実行されました。国内成長の限界を見据え、海外での商流・技術・ブランドを一挙に獲得する動きが加速しています。

このように、件数最多更新は単なる好況シグナルではありません。日本企業が構造変化への適応を本格化させた結果であり、資本を通じた再編が常態化したことを意味します。コンサルティングファーム志望者にとっては、M&Aが一過性のブームではなく、今後も継続する経営アジェンダであるという事実を示すデータと言えるでしょう。

なぜ今M&Aが加速しているのか:人手不足・事業承継・海外展開という3大潮流

なぜ今M&Aが加速しているのか:人手不足・事業承継・海外展開という3大潮流 のイメージ

なぜ今、これほどまでにM&Aが加速しているのでしょうか。

背景には一時的な景気循環ではなく、日本経済の構造そのものを揺るがす三つの潮流があります。すなわち人手不足、事業承継問題、そして海外展開の加速です。

コンサルティングファームを志すのであれば、このマクロ構造を理解することが不可欠です。

潮流 企業側の課題 M&Aの役割
人手不足 採用難・人件費高騰 組織ごとの人材獲得
事業承継 後継者不在・黒字廃業 第三者承継による存続
海外展開 国内市場縮小 現地基盤の即時取得

第一の潮流は、深刻な人手不足です。2024年問題が象徴するように、物流や建設、ITなど多くの業界で労働力制約が顕在化しています。

株式会社ストライクなどの市場レポートでも指摘されている通り、近年は「Acqui-hiring」と呼ばれる人材獲得型M&Aが増加しています。これは事業や技術だけでなく、機能しているチームそのものを買うという発想です。

採用市場で数年かけても確保できない専門人材を、M&Aによって一括で獲得するほうが合理的という経営判断が広がっています。

第二は事業承継問題です。中小企業庁が示す通り、後継者不在による黒字廃業は地域経済にとって深刻なリスクです。

2024年には中小M&Aガイドラインが改訂され、不適切な仲介の排除や利益相反の明確化が進みました。制度整備が進んだことで、「身売り」ではなく「会社を残す選択肢」としてM&Aが再定義されています。

ここでは財務ロジック以上に、経営者の想いを汲み取る支援が重要になります。

第三は海外展開です。人口減少が続く国内市場に対し、企業は成長機会を海外に求めています。

2024年には積水ハウスによる米M.D.C. Holdingsの買収や、ルネサスエレクトロニクスによるAltium買収など、大型のアウトバウンド案件が実行されました。いずれも数千億円規模であり、時間を買う戦略的投資といえます。

海外でゼロから拠点を築くよりも、既存のブランド・顧客基盤・人材を一括取得するほうが圧倒的に速いのです。

M&Aはもはや「攻め」か「守り」かの二択ではなく、構造課題に対する現実的な経営インフラになっています。

人材、承継、グローバル化という三つの圧力は、今後さらに強まる可能性が高いです。そのためM&Aは一過性のブームではなく、企業経営の標準装備として定着しつつあります。

この構造変化を読み解けるかどうかが、M&A領域で活躍できるコンサルタントになれるかを分ける重要な視点になります。

M&Aコンサルタントとは何者か:役割とミッションの全体像

M&Aコンサルタントとは、企業の売買を仲介する人という単純な存在ではありません。経営戦略を資本の力で実装するプロフェッショナルであり、企業の未来を設計する参謀役です。

2024年の日本のM&A件数は1,221件と過去最多を更新しました。株式会社ストライクおよびM&A Onlineのレポートによれば、M&Aはもはや例外的な出来事ではなく、経営の「日常的選択肢」になっています。

この環境下で、M&Aコンサルタントの役割は単なる助言にとどまらず、経営の意思決定そのものに深く関与することにあります。

役割 具体的内容 求められる視点
戦略設計 なぜ買うのか・売るのかを定義 中長期の企業価値向上
実行支援 DD・価値算定・交渉 リスク最小化と価格妥当性
統合推進 PMIの設計・実行 シナジー創出と組織融合

特に重要なのは、「なぜこの取引を行うのか」という戦略的合理性を言語化することです。戦略ファームが重視するStrategic Rationaleの設計は、単なる財務的リターンではなく、競争優位の構築という視点に立脚しています。

一方、FAS領域ではデューデリジェンスやバリュエーションを通じて、数字の裏側に潜むリスクを可視化します。簿外債務や正常収益力の精査は、買収後の損失回避に直結します。

さらに仲介型では、オーナー経営者の人生そのものに向き合います。中小企業庁のガイドライン改訂が示すように、事業承継型M&Aでは透明性と倫理性が強く求められています。

M&Aコンサルタントの本質的ミッションは「取引を成立させること」ではなく、「企業価値を持続的に高める資本戦略を実現すること」です。

だからこそ彼らは、財務・法務・税務・戦略・人事といった多領域を横断します。買収価格の1円の差が数億円単位のインパクトを持つ世界で、論理と責任を背負って意思決定を支えます。

そして最終的に向き合うのは、数字ではなく人です。経営者の覚悟、従業員の不安、株主の期待を束ね、未来への合意を形成する役割を担います。

不確実な時代において、M&Aコンサルタントは単なるアドバイザーではなく、企業変革の触媒であり、資本市場の実行責任者として存在しています。

FAS・戦略ファーム・M&A仲介の違いとキャリアの選び方

FAS・戦略ファーム・M&A仲介の違いとキャリアの選び方 のイメージ

FAS・戦略ファーム・M&A仲介は、いずれもM&Aに関わりますが、立ち位置と評価軸が大きく異なります。自分がどのフェーズで価値を出したいのかによって、選ぶべきキャリアは変わります。

2024年に国内M&A件数が1,221件と過去最多を更新したと報告されていますが、この活況の中で各プレイヤーの役割分担はより鮮明になっています。

区分 主な役割 評価される力
FAS DD・バリュエーション・財務助言 会計・モデリングの精度
戦略ファーム 買収戦略・ビジネスDD・PMI設計 仮説構築力・経営視点
M&A仲介 マッチング・交渉・成約支援 営業力・調整力・実行力

FASは「価格とリスクを可視化する専門家」です。Big4系を中心に、財務DDや企業価値評価を担い、クライアントが株主に説明可能なロジックを構築します。公認会計士やUSCPAが多いのはそのためで、数値で意思決定を支えることに喜びを感じる人に向いています。

戦略ファームは「なぜ買うのか」を設計します。マッキンゼーやBCGに代表されるように、M&Aを成長戦略の一手段として位置づけ、シナジー仮説やPMIの青写真を描きます。EYの公開情報でもPMIやトランスフォーメーション支援の重要性が強調されています。経営アジェンダ全体を俯瞰したい人に適した環境です。

M&A仲介は「成約に責任を持つ実行者」です。日本M&AセンターやM&Aキャピタルパートナーズのように、中堅・中小企業の事業承継案件を中心に、売り手・買い手双方をまとめ上げます。成功報酬型の色合いが強く、公開情報によれば平均年収が1,000万〜3,000万円超の企業も存在します。結果で評価されたい人にとっては極めて魅力的です。

戦略を描きたいのか、数字を極めたいのか、成約を取りにいきたいのか。この自己認識がキャリア選択の分岐点になります。

選び方の軸は三つあります。第一に専門性の志向です。会計・ファイナンスを武器にしたいならFAS、経営全体に関与したいなら戦略、対人交渉で価値を出したいなら仲介が適しています。

第二にリスクと報酬の許容度です。インセンティブ色の強い仲介はハイリターンですが変動も大きいです。FASや戦略は比較的安定的な報酬体系です。

第三に将来の出口戦略です。PEファンド志望ならFASや戦略の経験が親和的で、事業会社の経営企画やスタートアップCFOを目指すならいずれの経験も活かせます。5年後・10年後にどうありたいかから逆算することが、後悔しない選択につながります。

M&Aプロジェクトの実務プロセス完全解説(戦略立案からPMIまで)

M&Aプロジェクトは、単なる買収交渉ではなく、戦略立案からPMIまでを一気通貫で設計・実行する総合格闘技です。
特にバイサイド支援では、各フェーズで求められる思考様式と成果物が明確に異なります。
プロセス全体を俯瞰しながら、どの局面でどの専門性が価値を生むのかを理解することが、実務家への第一歩です。

全体プロセスの俯瞰

フェーズ 主目的 中心論点
戦略立案・ソーシング 買収仮説の構築 なぜ買うのか、誰を買うのか
エグゼキューション 価格と条件の確定 リスク検出と価値算定
PMI シナジー実現 組織・制度・IT統合

最初の戦略立案では、中期経営計画を起点に「オーガニック成長の限界」を特定します。
不足する技術、人材、商流を定義し、ロングリストからショートリストへと絞り込みます。
この段階で重要なのは、買収を目的化せず、競争優位の構築という戦略ストーリーを言語化することです。

基本合意後のエグゼキューションでは、デューデリジェンスが核心となります。
財務DDでは、正常収益力の算出や簿外債務の検出を行い、企業価値評価の前提を整えます。
FAS領域で強調される通り、DDは単なる確認作業ではなく、価格交渉の武器をつくるプロセスです。

バリュエーションではDCF法や類似会社比較法を組み合わせ、価格レンジを提示します。
割引率や事業計画の前提次第で評価額は大きく変動するため、論理的一貫性が不可欠です。
算定結果は株主説明の根拠にもなり、フェアネス・オピニオンの基盤として機能します。

最終契約締結後、本当の勝負が始まります。
PMIでは100日プランを策定し、組織体制、人事制度、IT基盤の統合を段階的に実行します。
近年はIT-PMIの重要性が高まっており、システム統合の遅延がシナジー毀損に直結します。

M&Aは成約がゴールではなく、シナジー創出がゴールです。価格交渉で1円を削ること以上に、統合後にいかに価値を伸ばせるかが最終的な勝敗を決めます。

経営者インタビューや現場ヒアリングを通じて文化摩擦の火種を特定し、早期に対処することもPMIの重要論点です。
交渉力、分析力、プロジェクト推進力が全局面で要求されます。
この一連の流れを理解することが、M&Aコンサルタントとして現場で信頼される基盤になります。

デューデリジェンスとバリュエーションの実務:企業価値はどう算定されるのか

M&Aの成否を左右するのが、デューデリジェンスとバリュエーションです。華やかな戦略議論の裏側で、実務家が最も神経を尖らせるのは「見えないリスクをどう可視化し、いくらで買うのが妥当か」を論理的に示すプロセスです。

特にFAS領域では、財務数値の精査と企業価値評価が中核業務となります。単なる計算ではなく、将来キャッシュフローの確度やリスクをどう織り込むかという高度な判断が求められます。

企業価値算定は「過去の数字の確認」ではなく、「将来の収益力に対する仮説構築と検証のプロセス」です。

デューデリジェンスは対象企業の健康診断といわれますが、実際はそれ以上に踏み込みます。例えば財務DDでは、売掛金の回収可能性、在庫評価の妥当性、未払残業代や訴訟リスクといった簿外債務の有無まで精査します。

さらに重要なのが「正常収益力」の把握です。一時的な特需や資産売却益を除外し、本来どの程度のEBITDAを安定的に生み出せるのかを再構築します。この数値が後続のバリュエーションの基礎となります。

企業価値評価の代表的手法は以下の通りです。

手法 特徴 実務上の論点
DCF法 将来CFを現在価値に割引 事業計画の妥当性、WACC設定
類似会社比較法 上場企業のマルチプル参照 類似性の選定、市場環境の影響
取引事例法 過去M&A事例を参照 取引時点の特殊要因調整

実務ではこれらを単独で用いることは少なく、複数手法を組み合わせレンジを示します。日本公認会計士協会が公表する実務指針でも、評価手法の合理的併用と前提条件の明示が重要とされています。

特にDCF法では、割引率であるWACCの0.5%の違いが企業価値を数十億円単位で変動させることもあります。そのため資本構成、ベータ値、リスクプレミアムの設定根拠を論理的に説明できなければなりません。

また、DDで発見されたリスクは価格交渉に直結します。例えば追加債務が判明すれば価格調整条項や補償条項に反映させます。バリュエーションは交渉のための武器であり、単なる理論計算ではありません。

コンサルタント志望者にとって重要なのは、モデルを作れること以上に「前提を疑う姿勢」です。経営陣の事業計画をそのまま信じるのではなく、市場成長率や競合動向と照合し、仮説を再検証します。

最終的に提示される価格は、数式の結果であると同時に、リスクと期待を織り込んだ意思決定の産物です。この緻密なプロセスこそが、M&Aコンサルタントの専門性を最も象徴する実務なのです。

一流に求められるハードスキル:財務・モデリング・法務の基礎と応用

M&Aの最前線で価値を発揮するためには、戦略思考だけでなく、財務・モデリング・法務というハードスキルを圧倒的な解像度で使いこなす力が求められます。特にFASや投資関連部門では、これらは「できればよい」スキルではなく、プロとしての前提条件です。

財務三表を読み解けることと、企業価値を自ら算定できることは、M&A人材の最低ラインといっても過言ではありません。

財務:数字の裏にある経営の実態を掴む

領域 基礎 応用
会計 PL/BS/CFの構造理解 正常収益力の算定、IFRS理解
分析 収益性・安全性指標 簿外債務・運転資本調整の特定
税務 法人税の基礎 組織再編税制の影響分析

財務デューデリジェンスでは、単に利益水準を見るのではなく、一過性要因を除外したEBITDAを再計算します。FAS実務でも強調される通り、退職給付引当金の不足や未払残業代などの簿外債務の検出は企業価値に直結します。

また、クロスボーダー案件ではIFRSやUS-GAAPへの理解も不可欠です。会計基準差異を調整できなければ、正しい比較もできません。

モデリング:意思決定を数式で支える力

DCF法による企業価値評価は、将来キャッシュフローと割引率の設定にかかっています。割引率(WACC)の前提が1%変わるだけで、評価額が大きく変動することもあります。

重要なのは、モデルを「作れる」ことではなく、「前提を説明できる」ことです。感度分析を通じて売上10%減少時の価値変動を示し、経営陣にリスクを可視化する力が問われます。

数千行に及ぶExcelモデルを構築する正確性とスピードは、実務では生産性そのものです。これは単なる作業能力ではなく、意思決定の質を左右するインフラです。

法務:スキーム選択が価値を左右する

会社法や金融商品取引法、独占禁止法などの基礎理解は当然として、株式譲渡・事業譲渡・会社分割といったスキームごとの違いを説明できる必要があります。

例えば事業譲渡では個別資産の移転手続きが必要になる一方、株式譲渡では包括承継が可能です。税務・契約・許認可への影響まで踏まえて最適解を提示できるかが差になります。

一流のM&A人材とは、財務・モデリング・法務を個別に理解している人ではなく、それらを統合して「この価格、この条件で買うべき理由」を論理的に示せる人です。

中小M&Aガイドラインの改訂でも利益相反や手数料透明性が強調されているように、専門知識と同時に高い倫理観も求められます。高度な技術を持ちながら、公正性を守れるかどうかがプロフェッショナルの分水嶺です。

これらのハードスキルは一朝一夕では身につきません。しかし体系的に鍛え上げれば、どのファームでも通用する揺るぎない市場価値を手に入れることができます。

成約を左右するソフトスキル:経営者から信頼される人材の共通点

成約を左右するのは、財務モデルの精度以上に「この人と最後まで走り切れるか」という経営者の直感です。

M&Aは経営者にとって、自身のキャリアの総決算であり、時に人生そのものを賭けた意思決定です。中小企業庁が公表する中小M&Aガイドラインでも、仲介者の誠実性や利益相反管理の重要性が強調されています。制度が整備されるほど、最終的な決断を後押しするのは「誰が伴走するのか」という人的要素になります。

では、経営者から本当に信頼される人材にはどのような共通点があるのでしょうか。単なるコミュニケーション能力という言葉では片付けられない、再現性のあるソフトスキルが存在します。

ソフトスキル 具体的行動 経営者への影響
傾聴力 決算資料より先に創業ストーリーを聞く 心理的安全性の醸成
構造化力 感情的対立を論点ごとに整理する 冷静な意思決定を支援
胆力 不都合な事実も率直に伝える 長期的信頼の獲得
一貫性 言行をぶらさず情報管理を徹底 安心して任せられる感覚

特に重要なのは「耳を傾ける順番」です。財務数値やスキームの話に入る前に、創業の背景や従業員への思いを丁寧に聞く姿勢があるかどうかで、関係性は大きく変わります。事業承継型M&Aでは、価格よりも「誰に託すか」が優先される場面も少なくありません。

また、信頼されるコンサルタントは、耳障りの良い提案だけをしません。デューデリジェンスで判明したリスクや、シナジーが想定通り出ない可能性についても、ロジックとデータに基づき率直に伝えます。Big4系FASが重視するガバナンス意識や説明責任の徹底は、この姿勢を体現するものです。

さらに、交渉局面で感情が高ぶった際に、当事者の顔を立てながら論点を再整理できるかどうかも決定的です。売り手は「高く評価されたい」、買い手は「合理的に買いたい」という本音を抱えています。ここで対立を煽るのではなく、共通利益に焦点を当て直すファシリテーション力が、成約率を押し上げます。

最終的に経営者が見るのは、肩書きや資格だけではありません。約束を守るか、守秘義務を徹底できるか、困難な局面で逃げないか。一つ一つの小さな行動の積み重ねが「この人に任せたい」という決断につながります。

ハードスキルは努力で磨けますが、ソフトスキルは日々の姿勢に表れます。経営者の孤独に真正面から向き合い、最後まで伴走する覚悟を持てるかどうか。それこそが、成約を左右する最大の差になります。

年収3,000万円超は本当か?報酬体系とインセンティブの仕組み

「年収3,000万円超」という数字は、M&A業界では誇張ではありません。ただし誰でも到達できる水準ではなく、報酬体系を正しく理解することが前提です。

M&A業界の報酬は、大きく「固定給+賞与型」と「低固定給+高率インセンティブ型」に分かれます。特に仲介会社では後者の色合いが強く、成果が報酬に直結します。

公開情報によれば、M&Aキャピタルパートナーズの平均年収は約3,161万円(2022年実績)とされています。これは成功報酬中心の設計によるものです。

区分 報酬構造 年収レンジの特徴
M&A仲介 固定給+高率インセンティブ 成果次第で数千万円〜億超
FAS(Big4等) 高めの固定給+賞与 マネージャー1,000万超、パートナー3,000万超
戦略系 職位連動型の年俸+賞与 昇進に応じて段階的に上昇

仲介モデルでは、案件が成約した際に発生する成功報酬の一定割合が担当者に還元されます。手数料は取引金額に応じて算定されるため、1件あたりの報酬インパクトが極めて大きいのが特徴です。

つまり年収3,000万円は「役職」よりも「成約実績」によって決まる世界です。トッププレイヤーは年間複数件をクロージングし、青天井型のインセンティブで報酬を伸ばします。

一方、FASや総合系ファームは固定給の比率が高く、役職レンジに応じて安定的に上昇します。ムービンの解説などによれば、マネージャークラスで1,000万〜1,500万円、パートナーで3,000万円超が一つの目安とされています。

ここで重要なのは、報酬の裏側にあるリスク構造です。仲介型では案件が成約しなければインセンティブは発生しません。半年以上追い続けた案件が破談になることも珍しくなく、収入の変動幅は大きくなります。

反対に固定給中心のモデルでは収入は安定しますが、爆発的な上振れは限定的です。ハイリスク・ハイリターンを取るか、安定成長を取るかという選択でもあります。

年収3,000万円という水準は確かに現実的な到達点ですが、それは「市場価値の結果」にすぎません。高度な専門性、強い営業力、そして強烈なプレッシャー耐性があって初めて実現する報酬水準です。

数字だけを見るのではなく、自分がどの報酬モデルに適性があるのかまで踏み込んで考えることが、後悔しないキャリア選択につながります。

激務のリアルと成長環境:なぜ離職しない人も多いのか

M&A業界は「高収入・激務」の代名詞として語られることが少なくありません。実際に、デューデリジェンスやクロージング前後の時期には深夜対応が続き、休日もクライアントや相手先との調整に追われるケースがあります。

一方で、激務であるにもかかわらず、一定数のプロフェッショナルが業界にとどまり続けているのも事実です。その背景には、単なる報酬以外の構造的な要因があります。

M&Aの激務は「作業量の多さ」以上に、「責任の重さ」と「時間制約の厳しさ」に起因しています。

特にエグゼキューション局面では、相手企業の都合や突発的なリスク発覚により、スケジュールが一気に前倒しされることがあります。YouTube上の現役コンサルタントの証言でも、クロージング直前は連日深夜作業が続くと語られています。

さらに、取り扱う金額が数十億円から数千億円規模に及ぶため、わずかなミスが重大な損失や信用低下につながります。この緊張感が「精神的な激務」を生み出しています。

要素 具体的内容 負荷の種類
時間制約 DD・契約直前の集中作業 身体的負荷
金額規模 数十〜数千億円規模の意思決定 心理的プレッシャー
機密性 インサイダー情報の厳格管理 継続的緊張

しかし興味深いのは、「激務だから辞める」という単純な構図になっていない点です。業界内では、むしろ案件がない状態の方が不安だという声もあります。特に成功報酬型の仲介会社では、成約が報酬に直結するため、忙しさが自己成長と収入増加のシグナルになります。

また、成長環境としての密度は他業界と比較して際立っています。半年から1年のプロジェクトの中で、財務分析、交渉、経営陣対応、契約実務まで一気通貫で経験できます。ムービンの解説でも指摘されているように、FAS出身者がPEファンドや事業会社で高く評価されるのは、この圧縮された成長経験があるからです。

若手のうちから経営者と直接対峙し、意思決定の現場に立てる環境は極めて希少です。この裁量と緊張感が、長時間労働を上回る学習効果を生みます。

さらに、成果が可視化されやすい点も離職を抑える要因です。ディールが成立すれば、企業の存続や成長という明確な成果が生まれます。単なる資料作成に終わらず、社会的インパクトを実感できることが、内発的動機を強く刺激します。

つまり、M&A業界のリアルは「過酷だが報われる構造」にあります。高密度な実務経験、成果と報酬の直結、そして経営の最前線での当事者意識。この三位一体が、激務であってもなお人を惹きつけ続けている理由なのです。

ポストM&Aコンサルのキャリア:PEファンド・事業会社・スタートアップCFO

M&Aコンサルタントとしてポストディール、とりわけPMIまで主導した経験は、その後のキャリアを大きく規定します。単なるアドバイザーではなく、企業価値向上の実行フェーズを知る人材は、投資家・事業会社・スタートアップのいずれからも高く評価されます。

代表的な選択肢は、PEファンド、事業会社のM&A・経営企画、そしてスタートアップCFOです。それぞれで求められる視座と責任範囲は異なります。

進路 立場 主な価値発揮領域
PEファンド 投資主体(プリンシパル) 投資判断・バリューアップ・Exit設計
事業会社 社内責任者 買収戦略立案・PMI実行
スタートアップCFO 経営陣 資本政策・資金調達・IPO/M&A準備

PEファンドでは、これまで助言してきた立場から、自らリスクを取る投資家へと転じます。FAS出身者にとっては、DDやバリュエーションの経験が投資判断に直結します。Movinの解説によれば、FAS経験者はファンドにおいて即戦力と見なされやすいとされています。最大の違いは、意思決定の当事者になる点であり、取締役として経営に深く関与するケースも珍しくありません。

一方、事業会社のM&A・経営企画ポジションでは、買収を“点”ではなく“線”で捉えます。案件実行だけでなく、中期経営計画との整合、組織再編、シナジーKPIのモニタリングまで担います。外部アドバイザーを使う側に回るため、プロジェクト設計力や論点整理力が強みになります。短期的な成約よりも、統合後3〜5年の価値創出が評価軸になるのが特徴です。

近年増えているのがスタートアップCFOへの転身です。資金調達ラウンドの設計、投資家との条件交渉、ストックオプション設計など、ファイナンスの総合力が問われます。FASからの転職事例でも、資本政策の専門性が評価されるケースが紹介されています。IPO準備やM&AによるExitを見据え、経営チームの一員として意思決定に関与する点が醍醐味です。

ポストM&A人材の市場価値は、「ディール経験」そのものよりも、「企業価値をどう上げたか」という実行実績で決まります。

どの進路を選ぶにせよ、共通して問われるのは、財務モデルの精緻さだけでなく、組織・人材・オペレーションまで踏み込んだ統合経験です。コンサルタントとして培った分析力を、当事者としての責任と覚悟に昇華できるかどうかが、次のキャリアを左右します。

未経験から目指すには?採用市場の動向と選考突破のポイント

未経験からM&Aコンサルタントを目指すことは十分可能ですが、市場構造と採用側の期待値を正しく理解することが前提になります。現在の採用市場は、案件増加を背景に拡大傾向にあります。

2024年の国内M&A件数は1,221件と17年ぶりに過去最多を更新しました。ストライクおよびM&A Onlineのレポートが示すとおり、市場の裾野は中堅・中小企業まで広がっており、人材需要も質・量ともに高まっています。

特に事業承継案件やIT関連分野の拡大により、従来の金融・会計バックグラウンド以外にも門戸が開かれつつあります。

未経験者にとって重要なのは「即戦力」ではなく「再現性のあるポテンシャル」を示せるかどうかです。

採用市場で評価されやすい代表的なバックグラウンドは以下のとおりです。

出身領域 評価される理由 主な想定配属
銀行・証券 財務知識・法人営業力 M&A仲介・カバレッジ
監査法人 会計リテラシー・DD経験 FAS
事業会社 業界知見・PM経験 ビジネスDD・PMI
IT/SIer システム統合知識 IT-DD・IT-PMI

Big4系FASや戦略ファームでは、ケース面接や筆記試験を通じて論理的思考力が厳しく見られます。PwCアドバイザリーの中途採用動向を分析した転職市場レポートでも、志望動機の具体性と数値ベースの実績提示が重要だと指摘されています。

一方、仲介会社では成果志向や営業適性が強く問われます。高いインセンティブ制度を採用している企業が多く、年収水準も上場仲介会社で1,000万円超が一般的というデータもあります。つまり、選考では「厳しい環境でも成果を出し続けられるか」が核心です。

選考突破のポイントは三つあります。第一に、なぜM&Aなのかを自身の経験と結びつけて語れることです。単なる高収入志向ではなく、事業承継や企業変革への問題意識を言語化できるかが差になります。

第二に、財務三表の理解や簡易的なDCFの考え方など、基礎的なファイナンス知識を事前に身につけておくことです。未経験でも学習済みであることは強いシグナルになります。

第三に、過去の成果を定量化することです。「担当した」ではなく「何を改善し、どれだけの成果を出したか」を明確に示せる人材は、M&Aの成果責任型ビジネスとの親和性が高いと評価されます。

市場は拡大していますが、求められる水準も高いのが現実です。だからこそ、構造的な市場成長という追い風を活かしつつ、自身の経験をM&Aの文脈に翻訳できるかが、未経験からの突破を左右します。

参考文献