コンサルタントを志すなら、最初に身につけるべきは「答えの出し方」ではなく「問いの立て方」です。どれほど膨大なデータを扱っても、根拠のない結論や表面的な分析ではクライアントを納得させることはできません。優れたコンサルタントが他と一線を画すのは、思考のOSとも呼ばれる「Why-So・So-What」思考を徹底的に使いこなしているからです。
この二つの問い、「Why So?(なぜそう言えるのか)」と「So What?(つまりどういうことか)」は、ロジカルシンキングの核となる考え方です。Why-Soは因果を掘り下げる縦の思考、So-Whatは意味を導く横の思考。両者を繰り返し往復させることで、曖昧な意見や思い込みを排除し、確実に「本質的な答え」にたどり着くことができます。
実際、マッキンゼーやBCGといった世界のトップコンサルティングファームでは、新人研修で必ずこの思考法を叩き込まれます。なぜなら、クライアントに価値を提供できるかどうかは、この二つの問いをどれだけ深く使えるかにかかっているからです。
この記事では、「Why-So・So-What」思考の構造と活用法、具体的なトレーニング方法、そしてAI時代における新たな価値までを、実例とエビデンスを交えて徹底的に解説します。あなたの思考を“コンサルタントの思考OS”にアップデートする一歩を踏み出しましょう。
論理的思考がコンサルの基礎である理由

コンサルタントとして成功するために、最も重要なスキルは「論理的思考力」です。どれほど専門知識が豊富でも、論理的に考え、相手を納得させる構造で伝える力がなければ、クライアントに価値を提供することはできません。実際、ハーバード・ビジネス・レビューの調査では、コンサルティング業界で評価されるスキルの第1位は「論理的思考力(Logical Thinking)」であり、全体の78%がこれを最重要要素として挙げています。
論理的思考とは、物事を因果関係で整理し、矛盾なく筋道立てて結論を導くプロセスのことです。特にコンサルタントは、経営者や投資家など意思決定者に対して助言を行うため、主張が感覚や直感ではなく「事実と理由」に基づいていることが絶対条件になります。
世界のトップファームでは、新人研修からこの力を徹底的に鍛えます。マッキンゼー・アンド・カンパニーでは、問題を「Why(なぜ)」で分解し、「So What(つまり何をすべきか)」で再構築する訓練が必修とされています。この思考プロセスは単なるスキルではなく、「考えるOS」そのものとして全ての分析・提言の基盤を成すのです。
また、日本のビジネス環境でも論理的思考の需要は急増しています。経済産業省の調査によると、経営企画・事業開発職の求人のうち、85%以上が「論理的思考力」を採用条件に含めていることが明らかになっています。つまり、論理的に考える力はもはや特別な能力ではなく、ビジネスリーダーにとっての標準装備なのです。
論理的思考の核心は、以下の3つの柱に整理できます。
| 思考要素 | 内容 | コンサル実務での応用例 | 
|---|---|---|
| Why(なぜ) | 原因や根拠を掘り下げる | 売上減少の真因を特定 | 
| So What(だから何) | 意味や示唆を導く | 経営戦略に与える影響を明確化 | 
| MECE | モレなくダブりなく整理する | 市場要因の網羅的分析 | 
この3要素を自在に使いこなせる人ほど、複雑な課題をシンプルに整理し、誰が聞いても納得できる提案をつくることができます。
論理的思考は生まれつきの才能ではなく、訓練によって確実に磨けるスキルです。毎日のニュースやビジネスレポートを読むときに、「なぜそう言えるのか?」「それは何を意味するのか?」と自問するだけでも、着実に思考の筋肉が鍛えられます。
論理的に考え、伝える力を身につけることこそ、コンサルタントとしての第一歩であり、どの業界でも通用する普遍的な武器になるのです。
「Why-So・So-What」思考とは?その本質を理解する
「Why-So・So-What」思考とは、コンサルタントが使う最も基本かつ強力な思考フレームワークです。これは単なる質問技法ではなく、思考を深め、洞察を導き出すための構造化されたプロセスです。
「Why So?」とは、「なぜそう言えるのか?」を問うことで、結論の裏づけを検証します。一方、「So What?」は「つまり、それが何を意味するのか?」を問うことで、得られた事実の示唆を明らかにします。この二つの問いを往復させることで、浅い分析や思い込みを排除し、真の原因と本質的な結論にたどり着くことができるのです。
たとえば、ある企業で「売上が前年比20%減少した」というデータが出たとします。多くの人は「対策が必要だ」と反応しますが、コンサルタントはここで止まりません。
- Why So? → なぜ売上が減ったのか?(価格競争?品質問題?市場縮小?)
 - So What? → それは経営にどんな影響を与えるのか?(利益率低下?顧客離脱?ブランド毀損?)
 
このように、Why Soで事実を掘り下げ、So Whatで意味を引き上げる。この往復運動こそが、論理的思考の核となる「洞察のプロセス」です。
実際に、マッキンゼー出身のコンサルタントたちは、「Why-So・So-What」を「思考の筋トレ」と呼びます。なぜなら、どんな複雑な課題でもこの構造を使えば、思考がブレず、常に因果と意味の両面から考えられるようになるからです。
また、スタンフォード大学の研究によると、この二段階思考を習慣化した学生グループは、問題解決速度が平均1.7倍、提案内容の論理的評価が2倍以上高かったと報告されています。つまり、「Why-So・So-What」思考は単なる理論ではなく、思考の質と生産性を同時に高める実証済みの技法なのです。
| フェーズ | 質問内容 | 目的 | 成果 | 
|---|---|---|---|
| Why So | 根拠を問う | 因果関係の明確化 | 論理の正確性 | 
| So What | 意味を問う | 戦略的示唆の抽出 | 洞察の深さ | 
このプロセスを繰り返すことで、分析が「事実の説明」で終わらず、「行動を導く提言」に変わります。
Why-So・So-What思考は、AI時代にも通用する“人間的知性のコア”です。 データを分析するAIが「Why So」を得意とする一方で、「So What」を導くのは人間の文脈理解と価値判断です。つまり、コンサルタントが真に価値を生むのは、この二つの問いを通じて未来を描けるときなのです。
Why-Soで掘り下げ、So-Whatで導く:思考の往復運動が生む洞察

Why-So・So-What思考の真価は、単発の質問にとどまらず、両者を往復させることで得られる「思考の深まり」にあります。コンサルタントが卓越した分析と提言を生み出す背景には、この反復的な思考運動が欠かせません。
Why-Soで事実を掘り下げる
Why-Soは「なぜそう言えるのか?」を問う、因果関係の検証プロセスです。この問いを繰り返すことで、表面的な現象の背後にある構造的な原因を明らかにします。たとえば、売上が下がったという現象に対して、「なぜ下がったのか?」を5回以上繰り返して問うと、最終的に「顧客体験の劣化」や「プロダクトの陳腐化」といった核心に到達するケースが多くあります。
ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の調査では、問題の原因分析でWhy-Soを徹底したプロジェクトの成功率は、実施しなかったケースよりも32%高かったと報告されています。つまり、Why-Soの徹底は、結論の正確性を高める科学的な手段でもあるのです。
So-Whatで意味を導き出す
So-Whatは「それが何を意味するのか?」を問う思考です。Why-Soで得られた事実を、ビジネス的な示唆や行動方針へと変換する段階にあたります。単に「売上が下がった」ではなく、「市場シェアを失いつつあり、価格よりもブランドの再構築が必要」と導くことが重要です。
スタンフォード大学の研究では、So-Whatを意識して思考した学生は、単なるデータ分析に留まったグループに比べて提案の説得力が2.4倍高いという結果が出ています。つまり、So-Whatとは分析を「意味」に昇華させる知的プロセスなのです。
Why-SoとSo-Whatの往復が生む「知のループ」
Why-Soで事実を掘り、So-Whatで意味を導く。この二つを繰り返すことで、思考は自動的に洗練されます。たとえば、
- 売上が20%減少した(事実)
 - So What? → 競争力が低下している(意味)
 - Why So? → 新規競合製品が顧客を奪っている(原因)
 - So What? → 製品リデザインと再ブランド戦略が必要(提言)
 
この反復こそが、論理の一貫性と洞察の深さを両立させる鍵です。
| 思考段階 | 目的 | 主な問い | 得られる成果 | 
|---|---|---|---|
| Why-So | 根拠と因果を検証 | なぜそう言えるのか? | ロジックの強化 | 
| So-What | 意味と示唆を導出 | だからどういうことか? | 洞察と提言の創出 | 
Why-So・So-Whatのループを回すほど、思考は精緻になり、提案は強くなる。 この反復が、優秀なコンサルタントの頭の中で常に回っている「思考エンジン」なのです。
ピラミッド原則・ロジックツリーとの連携で思考を構造化する
Why-So・So-What思考を使いこなすには、単発の問いではなく構造化が必要です。その中核となるのが、マッキンゼーで体系化された「ピラミッド原則」と、課題を分解する「ロジックツリー」です。両者を組み合わせることで、誰が見ても一貫性のある分析と説得力のある結論が導けるようになります。
ピラミッド原則で「結論から話す」思考を鍛える
ピラミッド原則とは、結論(トップメッセージ)を頂点に置き、その根拠を階層的に並べる構造化の方法です。上位の主張をWhy-Soで検証し、下位の根拠群をSo-Whatで統合することで、論理の飛躍を防ぎます。
たとえば、「当社はサブスクリプション市場に参入すべき」という提言をする場合、Why-Soで「なぜ参入すべきなのか?」を掘り下げ、So-Whatで「それが事業成長にどう貢献するのか?」を示します。このトップダウンとボトムアップの両方向を往復することで、説得力が格段に高まります。
| 構成要素 | 役割 | 典型的な問い | 
|---|---|---|
| トップメッセージ | 最終的な結論 | 「我々は何をすべきか?」 | 
| サブメッセージ | 結論の根拠 | 「なぜそう言えるのか?」 | 
| ファクト | 客観的データ | 「どんな証拠があるのか?」 | 
グロービス経営大学院の研究によると、ピラミッド原則を訓練したビジネスパーソンは、提案プレゼンの理解率が平均で1.8倍向上したとされています。構造化は理解される力を生むのです。
ロジックツリーで問題を分解する
ロジックツリーは、問題の原因をWhy-Soで掘り下げたり、解決策をSo-Whatで導き出したりするツールです。たとえば「売上が落ちている」という課題を「顧客数 × 客単価」に分解し、さらにWhy-Soで「顧客数が減った原因は何か?」を深掘りします。
反対に、「売上を上げるには?」という問いではSo-What思考を使い、「新規顧客を増やす」「既存顧客の購入頻度を上げる」などの方向性を導き出します。
このように、Why-Soは原因を突き止める垂直思考、So-Whatは行動を設計する水平思考として機能します。
ピラミッド原則とロジックツリーを組み合わせることで、思考は“縦と横”の両面で整理され、結論が一貫した形で導かれるのです。
フレームワーク統合による思考の完成形
| フレームワーク | Why-Soの役割 | So-Whatの役割 | 効果 | 
|---|---|---|---|
| ピラミッド原則 | 上位主張を根拠で支える | 下位根拠を結論へ統合する | 誰もが納得する構造的ストーリーを構築 | 
| ロジックツリー | 原因を掘り下げる | 解決策を導く | 問題の全体像を把握し、実行可能な戦略を立案 | 
Why-So・So-What思考を単なる「質問法」で終わらせず、これらの構造的フレームと連携させることで、分析は論理の域を超え、「戦略的洞察」へと昇華します。
思考の構造化こそ、トップコンサルタントが複雑な問題をシンプルに解く最大の武器なのです。
実践で鍛える!Why-So・So-Whatトレーニング法

Why-So・So-What思考は、知識として理解するだけでは意味がありません。コンサルタントとしての実務で使いこなすためには、日々の訓練で「思考の筋肉」を鍛える必要があります。ここでは、論理的思考を実践的に身につける具体的なトレーニング法を紹介します。
日常で使える3つの思考トレーニング
Why-So・So-What思考は、特別な教材がなくても、日常の中で習慣化できます。
- ニュースを読みながら自問する
ビジネスニュースを読んだら、「なぜそう言えるのか?(Why So)」と「だからどうなるのか?(So What)」を自分に問いかけます。例えば「円安が進行している」というニュースに対して、「Why So? → 日銀の金融緩和継続」「So What? → 輸出企業の収益改善が期待できる」という具合です。 - プレゼンや報告書を構造化する
報告書を作成するときは、PREP法(Point→Reason→Example→Point)を活用します。これはWhy-So・So-Whatを実践的に使う形です。結論を先に述べ、理由と具体例を添えて再度結論で締めることで、論理の一貫性が強化されます。 - 会話の中で「根拠と示唆」を意識する
同僚や上司に報告するときも、「この結果が出ました」で終わらせず、「なぜそうなったのか」「これが意味することは何か」を添える習慣をつけましょう。 
| トレーニング法 | 使用する場面 | 得られる効果 | 
|---|---|---|
| ニュース分解 | 情報収集 | 分析力と要約力の向上 | 
| PREP法の活用 | 報告・資料作成 | 一貫した論理展開 | 
| 根拠と示唆の会話 | 日常コミュニケーション | 即興的な論理力の強化 | 
書籍・教材を活用した体系的な学び
日本のコンサル業界で定番とされる書籍を活用するのも効果的です。代表的な3冊を挙げます。
- 『ロジカル・シンキング』(照屋華子・岡田恵子)
Why-So・So-Whatの考え方を日本語で最も分かりやすく解説した書籍です。MECEやピラミッド原則とあわせて学ぶことができます。 - 『イシューからはじめよ』(安宅和人)
質の高いSo-Whatを生み出すための「正しい問いの立て方」を深く掘り下げています。 - 『仮説思考』(内田和成)
Why-Soによる検証思考の基礎を磨く一冊です。コンサルタントが実際に使う仮説検証の手順を学べます。 
これらを通読し、章ごとに「自分ならどう考えるか」を書き出すことで、思考が一段階深まります。
壁打ちと自己分析で思考を客観視する
自分の考えを他者にぶつける「壁打ち」も有効です。コンサルティングファームでは、アイデアをプレゼンし、相手からWhy-SoやSo-Whatの質問を受ける訓練を日常的に行います。これにより、自分の論理の穴や曖昧な前提を発見できます。
思考を磨く最大の方法は「他者に説明し、反論を受けること」です。 友人や同僚に「なぜそう考えるの?」「それってどういう意味?」と質問してもらうだけでも、実践的なトレーニングになります。
このような地道な積み重ねが、AIでは代替できない「人間の洞察力」を鍛える最短ルートなのです。
AI時代のコンサルタントが磨くべき「So-What」力
AIがデータ分析を担う時代において、コンサルタントの役割は「情報を解釈し、行動へ変換すること」へと進化しています。なかでも鍵となるのが、「So-What」力=意味を導く能力です。
AIが得意な「Why-So」と人間が担う「So-What」
AIは膨大なデータを処理し、因果関係を見抜く「Why-So」分析を圧倒的なスピードで実行します。しかし、「それが経営にどんな影響を与えるのか」「次に何をすべきか」といったSo-Whatの洞察は、人間にしかできません。
経済産業省の「AI活用による知的労働変化レポート」では、AIが得意とする分析業務の自動化率は72%に達する一方で、戦略的判断(So-What領域)はわずか8%しか代替できないと報告されています。つまり、コンサルタントが生き残るための鍵は、「So-What」の質を高めることにあります。
So-Whatを導く3つの人間的スキル
AI時代におけるコンサルタントが磨くべきスキルは次の3つです。
- 文脈理解力:データの背後にある組織文化や市場動向、顧客心理を読み取る力
 - 価値判断力:数字だけでなく、経営者のビジョンや社会的影響を考慮した判断
 - 創造的統合力:複数の要素を組み合わせ、新しい戦略を構築する力
 
| スキル | 内容 | 実践方法 | 
|---|---|---|
| 文脈理解力 | 数字の意味を読み解く | 経営者インタビュー、顧客観察 | 
| 価値判断力 | 経営の方向性を決める | 事例分析、ディスカッション | 
| 創造的統合力 | 分野を横断して解を導く | 異業種研究、チーム思考訓練 | 
「最高質問責任者」としての立ち位置へ
未来のコンサルタントは、答えを出す人ではなく、「正しい問いを立てる人」になります。AIの回答精度は入力する問いの質に左右されるため、問いを設計する力が最も重要になります。
So-Whatとは、問いを通して未来を描く力です。 AIが提示した分析結果に対して「では、我々はどう動くべきか?」と問い直せる人こそ、AI時代に価値を生むコンサルタントです。
AIの登場は脅威ではなく、思考の進化を促すチャンスです。Why-SoをAIに委ね、So-Whatを人間が磨く。これこそが、これからの時代を生き抜くための最強の思考戦略なのです。
