コンサルタントという職業に憧れる人が増え続ける中で、「自分はどんなタイプのコンサルタントになりたいのか」を明確に描けている人は決して多くありません。戦略を描くだけではなく、それを社会実装まで導ける本物のコンサルタントになるためには、どのような視点とスキルが必要なのでしょうか

その問いへの最も現実的なヒントを与えてくれるのが、野村総合研究所(NRI)です。NRIは1988年、シンクタンクとIT企業の融合によって誕生した、唯一無二の「コンサルティング×IT」ハイブリッド企業です。この構造的強みは単なる多角化ではなく、戦略構築と実行力を同時に備えた企業DNAそのものです。

NRIが提供する「ナビゲーション×ソリューション」モデルは、未来を洞察し、課題を定義し、それを技術で実現するという一貫したアプローチを可能にしています。さらに、金融IT分野で確立した共同利用型プラットフォームは、安定したストック収益を生み出す「収益のエンジン」として機能しています。

この記事では、NRIの事業モデルや人材育成戦略を徹底的に分析し、未来志向のコンサルタントが身につけるべき思考法・スキルセットを具体的に解き明かします。あなたが目指すべき「次世代コンサルタント像」を、ここで明確に描いていきましょう。

目次
  1. 野村総合研究所(NRI)に学ぶ、これからのコンサルタントに必要な思考とは
    1. 未来を構想する「未来創発」の思想
    2. 戦略と実行を一気通貫で考える力
    3. 「未来を創るコンサルタント」が持つ3つの資質
  2. 戦略とITを融合する「ナビゲーション×ソリューション」モデルの本質
    1. 「ナビゲーション」が描く未来の羅針盤
    2. 「ソリューション」が実現する変革の推進力
    3. 相互強化する“知と技術”のフライホイール
  3. 高収益を生み出すビジネス構造:金融プラットフォームに見る経済的優位性
    1. 共同利用型プラットフォームがもたらす安定収益
    2. コンサルティングとの相乗効果がもたらす付加価値
    3. 高収益を生む経営基盤
  4. 未来を読む力を磨く:シンクタンク型コンサルタントの知的武器
    1. シンクタンクが生み出す社会インサイト
    2. データと洞察で未来を描く力
    3. コンサルタントに求められる“知の使い方”
  5. NRIの人材戦略とキャリア形成に見る「プロフェッショナル成長モデル」
    1. 成長を支える「専門×横断」型キャリアパス
    2. 「知の共有」を重視する文化
    3. 「個の成長」と「組織の知」の両立
  6. コンサルティングの未来を変える「デジタル社会資本」構想とは
    1. 「デジタル社会資本」とは何か
    2. 社会課題を“産業機会”に変える発想
    3. コンサルタントが担う未来社会の設計者としての役割

野村総合研究所(NRI)に学ぶ、これからのコンサルタントに必要な思考とは

コンサルタントとして活躍するために求められるのは、単なる分析力や論理的思考ではありません。変化の激しい現代社会においては、未来を洞察し、それを現実に変える構想力と実行力の両立が欠かせません。野村総合研究所(NRI)はその代表例であり、同社の歩みにこそ、次世代コンサルタントに必要な思考法の本質が詰まっています。

未来を構想する「未来創発」の思想

NRIの企業理念である「未来創発」は、単に未来を予測するのではなく、自らが主体となって未来を創り出す姿勢を意味します。この考え方は、1965年に設立された旧・野村総合研究所の「社会に貢献する調査研究」というDNAと、1966年に誕生した野村コンピュータシステムの「技術で未来を構築する」という精神が融合して生まれました。

つまり、NRIのコンサルタントは「起こりうる未来を読むだけの観察者」ではなく、「望ましい未来をデザインする実践者」です。この思想は、現代のDX(デジタルトランスフォーメーション)時代にも通用する強力な指針となっています。

戦略と実行を一気通貫で考える力

多くのコンサルティングファームが「戦略の提案」で終わるのに対し、NRIはその後の実行までを見据えた提案を行います。これは、社内にITソリューション部門を併せ持ち、戦略とシステム構築を同じ組織で完結できる体制を整えているからです。

その結果、NRIのコンサルタントは、提案内容が現場でどのように実装されるかまで見通した戦略設計ができます。現実を動かすコンサルタントに必要なのは、理論ではなく「実装可能な戦略」を描くことです。

「未来を創るコンサルタント」が持つ3つの資質

NRIが育てる人材像から見えてくる、未来型コンサルタントに求められる資質は次の3つです。

資質内容
洞察力社会・経済・技術の変化を構造的に捉える力
実装力戦略を現場で実現するためのIT・DX理解
創発力顧客や社会と共に新しい価値を創造する姿勢

これらを高次元で融合させることで、単なる助言者ではなく「変革を共に進めるパートナー」としての地位を築けます。

NRIはまさに、未来を構想し、社会に実装することを自らの使命とするコンサルティングの原型を体現しており、コンサルタントを志す人にとって理想的なモデルケースと言えます。

戦略とITを融合する「ナビゲーション×ソリューション」モデルの本質

コンサルティング業界の中でも、NRIの最大の特徴は「ナビゲーション×ソリューション」という独自モデルにあります。これは、課題を発見し方向性を示す“ナビゲーション”と、それを具現化する“ソリューション”を一気通貫で提供する仕組みです。戦略立案と実行を分けずに連動させることで、他社にはない価値創造のサイクルを実現しています。

「ナビゲーション」が描く未来の羅針盤

ナビゲーションとは、顧客の課題を発見し、進むべき方向を示す知的機能を指します。NRIのシンクタンク機能は、社会・産業構造の分析やマクロ経済予測を通じて、企業や政府に「次の一手」を提示します。

たとえば、NRIが発行する「ITロードマップ」や「NRI未来年表」は、多くの経営層が戦略立案の参考にするほどの影響力を持っています。これは単なるレポートではなく、社会全体の議題を先取りし、市場の方向性を定める知の武器として機能しているのです。

「ソリューション」が実現する変革の推進力

一方で、ソリューションとはナビゲーションで描かれた戦略を実行に移す力です。NRIはITソリューション事業を通じて、コンサルティングで策定した構想を具体的なシステムやサービスとして形にします。

代表的な事例が、日本航空(JAL)との共同開発による「どこかにマイル」です。NRIは「特典マイルの未利用」という課題を発見し、行き先をランダムに決めるという新しい旅行体験の仕組みを提案・実装しました。ビジネス課題を解決しながら顧客満足度を高めたこのプロジェクトは、まさにナビゲーション×ソリューションの成功例です。

相互強化する“知と技術”のフライホイール

NRIでは、戦略と実行の間に分断がありません。シンクタンクの知見がコンサルティングを生み、コンサルティングがITプロジェクトを生み、ITシステムのデータが再び分析に還元される。こうした「知の循環サイクル」が生まれています。

この構造は、他の外資系ファームやSIerには真似できません。なぜなら、両者の知見を同一組織内で持つには、長年の経験と文化の融合が必要だからです。

NRIが持つこの一貫性こそ、戦略から実行までをつなぐコンサルタントにとっての究極の理想像であり、次世代コンサルタントが目指すべきモデルです。

高収益を生み出すビジネス構造:金融プラットフォームに見る経済的優位性

野村総合研究所(NRI)の高収益体質を支える最大の要因は、同社が長年培ってきた「金融ITプラットフォーム」ビジネスモデルにあります。この仕組みは、銀行・証券・保険などの金融機関が必要とするシステムを共同利用型で提供するという独自の構造です。結果として、安定的なストック収益を生み出し、コンサルティング事業と相互補完的に機能しています。

共同利用型プラットフォームがもたらす安定収益

NRIの代表的なサービスに「THE STAR」「BESTWAY」「T-STAR」などの金融機関向けシステムがあります。これらは複数の金融機関が共同で利用する形態を取っており、1社あたりのコストを抑えながらも、高品質で安全なサービスを継続提供できる点が特徴です。

このモデルは、金融業界特有の「安定性」と「信頼性」をベースにしており、参入障壁が極めて高い領域でもあります。さらに、各システムがクライアントの基幹業務に密接に結びついているため、契約が長期化し、安定した収益基盤を形成しています。

サービス名対象業界特徴
THE STAR証券業界顧客管理・取引処理を包括的に支援
BESTWAY銀行業界勘定系・チャネル系システムを一体化
T-STAR投資信託運用・リスク管理・データ連携を統合

これらのプラットフォームは、単なるシステム提供ではなく、金融市場の進化を支える社会インフラとしての役割を担っています。

コンサルティングとの相乗効果がもたらす付加価値

NRIの強みは、このIT基盤をもとにした「戦略的コンサルティング」の展開です。金融機関の経営改革、新規事業開発、デジタル戦略などにおいて、現場データを熟知したうえで課題を発見し、最適解を提示できるのはNRIならではです。

例えば、証券業界におけるリテールデジタル戦略の策定支援では、NRIのプラットフォームで得たデータを分析し、顧客の購買行動や取引傾向を可視化。その結果、個人投資家向けサービスの改善やAIによるリスク分析導入を推進しました。

このように、「データ×戦略×実行」を同時に扱える構造こそが、NRIの経済的優位性の源泉です。

高収益を生む経営基盤

実際、NRIの営業利益率は約20%前後と、日本のITサービス業界の中でも際立って高水準を維持しています。金融プラットフォームが安定収益を生み出す一方、コンサルティングが成長エンジンとして作用することで、景気変動に左右されにくい強固な収益モデルを築いているのです。

この二軸経営は、単なる多角化ではなく、「知のストックビジネス」という形で持続的な競争優位を実現しています。これこそが、NRIが長年にわたり「日本最高クラスの収益性」を誇る理由なのです。

未来を読む力を磨く:シンクタンク型コンサルタントの知的武器

コンサルタントとして成功するために最も重要な資質の一つが、「未来を読む力」です。野村総合研究所(NRI)は、シンクタンク部門を中核に据え、経済・社会・技術のトレンドを読み解く知的基盤を持つ稀有な企業です。NRIのリサーチ機能は、単なる調査分析にとどまらず、政策提言や企業戦略立案に直結する「社会的知」を生み出しています。

シンクタンクが生み出す社会インサイト

NRIのシンクタンク機能は、経済研究、政策提言、産業構造分析など幅広い領域をカバーしています。特に注目されるのが、毎年発行される「未来年表」や「生活者1万人調査」です。これらは日本社会の中長期的な変化を数値化・可視化し、企業が戦略を立てる際の羅針盤として活用されています。

このような分析は、政府のデジタル政策や企業のサステナビリティ戦略にも反映されており、NRIの知見が社会全体に影響を与える存在になっています。

データと洞察で未来を描く力

NRIが重視するのは、単なるデータ収集ではなく、「仮説構築」と「社会実装」までを視野に入れたリサーチです。たとえば、近年注目を集める生成AIや量子技術の社会的インパクト分析では、技術革新が経済構造に与える影響を体系的にモデル化しています。

これにより、クライアント企業は次世代事業への投資判断や組織変革の方向性を明確にできるのです。つまり、NRIのシンクタンクは「予測」ではなく「未来の設計図」を提供しています。

コンサルタントに求められる“知の使い方”

NRIのリサーチャーやコンサルタントは、社会データを分析するだけでなく、それをクライアントの課題に接続する役割を担っています。そのためには、以下の3つのスキルが求められます。

  • マクロとミクロの両視点で問題を捉える力
  • 定量データと定性分析を融合する思考力
  • 分析結果を実行プランに落とし込む構想力

これらを磨くことで、「現状分析の専門家」ではなく「未来創造のパートナー」としての地位を確立できます。

NRIのシンクタンク文化は、数字の裏にある社会の文脈を読み解く力を育て、コンサルタントに「考える知性」と「行動する知恵」を授けてくれるのです。

NRIの人材戦略とキャリア形成に見る「プロフェッショナル成長モデル」

コンサルタントとしてのキャリアを築くうえで、どのように自分を成長させていくかは最も重要なテーマです。野村総合研究所(NRI)は、人を「資本」としてではなく「知のインフラ」として育てることに重きを置いており、その育成モデルは日本企業の中でも突出しています。

成長を支える「専門×横断」型キャリアパス

NRIのキャリア形成の特徴は、専門性を磨きながらも業界横断的に知見を広げる仕組みにあります。入社後はまず、プロジェクトを通じて幅広い産業やテーマを経験し、次第に得意領域を見つけていきます。

NRIの人材開発部門によると、平均して3〜5年ごとに異なる業界・テーマを経験し、10年で「複数の専門ドメインを横断できるコンサルタント」へと育つのが理想とされています。

キャリアステージ役割・育成目標主な業務内容
若手期(1〜5年)基礎力・論理思考の確立リサーチ、資料作成、顧客課題の整理
中堅期(6〜10年)課題設定力・提案力の向上戦略立案、クライアント折衝、PJ推進
シニア期(11年以上)価値創造・リーダーシップ発揮顧客との共創、新規事業設計、若手育成

このように、NRIは単に昇進を目指す階段型のキャリアではなく、「知識を重層的に積み重ねる構造的キャリア」を推奨しています。

「知の共有」を重視する文化

NRIのもう一つの特徴は、個々の知見を社内全体で共有する文化にあります。社内ポータルには過去のプロジェクトナレッジが体系的に蓄積され、社員はそれを自由に検索・学習できます。

さらに、専門家同士が議論を行う「知識コミュニティ」が多数存在し、例えば金融DXやESG戦略など、時代の先端テーマに関する情報交換が日常的に行われています。

このような知のネットワークに身を置くことで、若手でも早期に高い視座を得ることができます。

「個の成長」と「組織の知」の両立

NRIの教育体系は、単なるスキル研修にとどまりません。リーダー層に対しては、経営大学院レベルの「エグゼクティブプログラム」を社内で実施しており、国際機関や大学との共同研究にも参加可能です。

こうした環境の中で育つコンサルタントは、「顧客の変革を導く知的リーダー」として成長していきます。

NRIの人材戦略は、知識と経験を積み重ねながら、社会に価値を提供し続けるための「長期的な知の育成モデル」と言えるでしょう。

コンサルティングの未来を変える「デジタル社会資本」構想とは

野村総合研究所(NRI)は、単なるITベンダーや戦略コンサルタントではありません。彼らが目指すのは、「デジタル社会資本」という新しい社会インフラの創造です。これは、データ・プラットフォーム・AI・金融ネットワークなどを「社会を支える基盤」として再定義する取り組みであり、次世代のコンサルティングを形作る中心的な構想です。

「デジタル社会資本」とは何か

この概念は、道路や電力のように、社会のあらゆる活動を支えるデジタル基盤を整備するという考え方に基づいています。NRIはこの分野で、データ連携・AI活用・安全なクラウド基盤を社会全体で共有する仕組みづくりを推進しています。

領域具体的な取り組み社会的効果
データ社会基盤官民データ連携・デジタルID行政効率化、企業間連携の促進
金融デジタル基盤キャッシュレス・決済インフラ金融包摂、地域経済活性化
サステナブル基盤ESG情報開示プラットフォーム環境・社会課題の可視化

このように、NRIは社会全体を「デジタルでつなぐ」視点からコンサルティングを再構築しています。

社会課題を“産業機会”に変える発想

NRIの強みは、社会課題を「新しいビジネスチャンス」として設計できる点です。たとえば、高齢化による医療費増大という社会課題に対し、医療データ基盤の整備を通じて、ヘルスケア産業の成長を支援するプロジェクトを推進しています。

これは単なるIT導入支援ではなく、政策・制度・企業活動を横断的にデザインする社会的コンサルティングです。

コンサルタントが担う未来社会の設計者としての役割

この「デジタル社会資本」構想の中で、コンサルタントに求められるのは、テクノロジーの知識だけではありません。社会構造・法制度・人間行動を総合的に理解し、未来社会を設計する力です。

NRIでは、コンサルタントがプロジェクトを通じて「社会と産業を同時に変革する」経験を積むことができ、結果として社会全体に影響を与える存在へと成長します。

NRIが提唱するこの構想は、コンサルティングという仕事の定義を変えようとしています。「企業のための助言」から「社会のための設計」へ。それが、未来のコンサルタントが目指すべき姿なのです。