いま、コンサルタントという職業がかつてない転換点に立っています。戦略立案や市場分析だけでは、もはやクライアントの信頼を得ることが難しくなりつつあります。ビジネスの複雑化、テクノロジーの進化、そして顧客体験の重要性が増す中で、求められているのは「問題を解く人」ではなく、「新しい問いを立てられる人」です。

その鍵となるのが「デザイン思考」です。IDEOやfrogといった世界的なデザインファームは、もはや美的センスを売る存在ではなく、企業の未来戦略を共に設計するパートナーとして進化しています。マッキンゼー、アクセンチュア、キャップジェミニといった大手コンサルティングファームも、続々とデザイン会社を買収し、組織の中に創造性を取り込もうとしています。

デザインはもはや「見た目」ではなく、価値を生み出す経営の中核になりつつあります。日本でも「デザイン経営」が国家戦略として推進され、企業競争力の源泉として注目されています。AIやサステナビリティといった新しい潮流が押し寄せる今、次世代コンサルタントに求められるのは、データを読む目と、人を理解する感性を兼ね備えた「戦略×創造のハイブリッド人材」です。

この記事では、IDEOやfrogを中心とした世界のデザインコンサルティングの最前線を徹底分析し、AI時代に生き残るコンサルタントが身につけるべきスキルとマインドを明らかにします。あなたが目指す「戦略家」としてのキャリアに、今こそデザインの視点を加える時です。

デザインと戦略の融合が生む新しい時代のコンサルティングとは

近年、世界のビジネスコンサルティング業界では、「デザイン」と「戦略」を組み合わせた新しい潮流が広がっています。これまでのコンサルティングはデータ分析や経営理論を中心にしていましたが、いまや人間中心の発想による価値創造が企業の成長を左右しています。

特に注目されているのが、IDEOやfrogといったデザインファームが牽引する「デザイン思考型コンサルティング」です。これらの企業はクライアントの課題を「分析」するのではなく、顧客の体験や感情に深く寄り添い、共に新しいサービスやビジネスモデルを構築します。

このアプローチは、単なるブランディングやプロダクトデザインを超え、経営戦略そのものを再設計する段階にまで発展しています。たとえば、IDEOが関わったスタンフォード大学病院のプロジェクトでは、患者の入院体験を徹底的に観察し、医療現場の動線やコミュニケーションを再構築。結果として、患者満足度とスタッフの業務効率が同時に改善しました。

こうした成功の裏には、デザイン思考の特徴である「共感」「発想」「実験」という3ステップがあります。

ステップ内容目的
共感顧客やユーザーの視点で課題を観察する本質的なニーズを把握する
発想多様な視点からアイデアを生み出す既存の枠を超える創造性を発揮
実験プロトタイプを通じて検証する迅速な学習と改善を行う

このように、デザイン思考は論理だけでなく感情を重視する戦略思考法です。従来のMBA的ロジックに加え、感性と創造性を融合させた思考が、未来のコンサルタントに求められています。

さらに、世界の大手コンサルティングファームもこの流れを加速させています。マッキンゼーが「LUNAR」、アクセンチュアが「Fjord」、デロイトが「Doblin」を買収した背景には、単なるデザイン強化ではなく、ビジネスの未来をデザインできる組織づくりがあります。

つまり、今の時代に必要なのは「問題解決」よりも「価値創造」。これこそが、デザインと戦略の融合が導く新しいコンサルティングの形なのです。

デザイン思考の本質：IDEOが提示した「人間中心イノベーション」の哲学

デザイン思考という言葉を世に広めた立役者が、アメリカ・シリコンバレーに本拠を置くIDEOです。彼らが提唱するのは、「人間中心イノベーション（Human-Centered Innovation）」という考え方です。これは、テクノロジーや市場よりもまず人間の体験や行動を理解することから始めるという哲学です。

IDEOの共同創設者デイヴィッド・ケリーは、「優れたデザインは、共感から始まる」と語っています。たとえば、アップルの初代マウスを設計したIDEOのチームは、ユーザーがどのようにマウスを持ち、動かし、クリックするかを徹底的に観察しました。その結果、直感的で使いやすいプロダクトが生まれ、ITと人間の間に“自然な関係”を築くことに成功しました。

近年では、IDEOが教育や行政、社会課題解決の分野にもデザイン思考を応用しています。アメリカの公教育改革プロジェクトでは、教師や生徒、保護者とのワークショップを通じて教育体験を再構築。その結果、参加校の離職率が25％減少し、学習意欲の向上が報告されています。

また、MITスローン経営大学院の研究によると、デザイン思考を導入した企業は、導入していない企業に比べてイノベーション成果が2.3倍、顧客満足度が1.8倍高いというデータがあります。これは、デザイン思考が単なる手法ではなく、企業文化そのものを変革する力を持っていることを示しています。

デザイン思考の本質を整理すると、以下の3つに集約されます。

  • ユーザーの感情と文脈を理解する「共感」
  • 限界を超えた発想を促す「多様性」
  • 実験と学びを繰り返す「スピード」

IDEOのアプローチが世界で評価される理由は、“デザイン＝美学”ではなく、“デザイン＝課題発見と未来設計”という発想にあるのです。

この人間中心の視点こそ、これからのコンサルタントに必要な「創造的戦略力」の核心です。

世界のトップファームに学ぶ：IDEOとfrogが築いた成功の構造

世界を代表するデザインファームとして知られるIDEOとfrogは、単なるデザイン会社ではありません。両者に共通するのは、企業のビジネス戦略にデザインを統合する力です。これが、彼らをコンサルティング業界の新しいモデルに押し上げた最大の要因です。

IDEOは「人間中心設計」を軸に、業界を超えた課題解決を行っています。企業の組織文化改革から教育制度の設計まで、課題の定義そのものを見直す姿勢が特徴です。例えば、スタンフォード大学と共同開発した「d.school」は、世界中のビジネスリーダーにデザイン思考を浸透させる教育モデルとして成功しました。

一方、frogはテクノロジーとデザインの融合に強みを持ちます。特にアップルとの協業により誕生した初代MacintoshのUIデザインは、デザインが経営に直結する実例として今も語り継がれています。frogのアプローチは、単なる外観の美しさではなく、ユーザーがプロダクトと「どう関係を築くか」に焦点を当てています。

この2社の違いと共通点を整理すると、次のようになります。

項目IDEOfrog
強み人間中心設計・共創文化テクノロジー統合・製品開発力
主な領域組織改革・社会課題解決デジタル体験・ブランド戦略
代表事例スタンフォードd.school、医療体験改革Apple Macintosh、BMW UI設計
思想共感と実験感性とデータの融合

両社の成功に共通するのは、「デザインをビジネス戦略の言語として使う」姿勢です。データ分析や財務指標だけでは見えない「人の感情」や「体験の質」を定量化し、経営判断に組み込む手法を確立しました。

さらに、IDEOとfrogはクライアントとの関係性にも革新をもたらしました。従来の受託型ではなく、「共創型パートナーシップ」を築き、クライアントのチームと一体化してアイデアを形にしていきます。

この共創アプローチは、企業が抱える“見えない課題”を顕在化させ、組織変革を加速させます。たとえば、IDEOが関わったP&Gのプロジェクトでは、社員自身がデザイン思考を活用することで、わずか6カ月で20件以上の新規アイデアが事業化に至りました。

デザインを中心に据えた経営は、もはや一部のクリエイティブ企業だけのものではありません。IDEOとfrogの成功が示すのは、「創造性が企業の競争優位をつくる」という普遍的な法則なのです。

マッキンゼーやアクセンチュアが買収で狙う“デザイン力”の本当の意味

近年、世界の大手コンサルティングファームがデザイン会社を次々と買収しています。マッキンゼーは「LUNAR」、アクセンチュアは「Fjord」、デロイトは「Doblin」、そしてBCGは「Digital Ventures」を傘下に収めました。これらの動きは偶然ではなく、デザインを戦略の中核に据える時代的必然なのです。

かつてコンサルティングは、分析とロジックによって課題を整理し、解決策を提示することが中心でした。しかし今、クライアントが求めているのは「数字」ではなく、「体験価値の創出」です。つまり、顧客の感情を読み取り、行動を変える仕組みをデザインできる力が競争力の源泉になっています。

マッキンゼーのLUNAR買収後の事例では、製品開発にデザイン思考を組み込み、医療機器メーカーの新製品投入スピードを30％短縮したと報告されています。また、アクセンチュアのFjordは、世界33拠点・1,200人以上のデザイナーを抱え、デジタルサービスの体験設計を専門領域として急成長しました。

コンサルファーム買収デザイン会社主な強化領域
マッキンゼーLUNAR製品デザイン・プロトタイピング
アクセンチュアFjordデジタル体験設計・UX戦略
デロイトDoblinイノベーション戦略・新規事業開発
BCGDigital Venturesベンチャー共創・事業インキュベーション

こうした買収の狙いは、単なるデザインリソースの拡充ではありません。実際には、「ビジネス課題をデザインで可視化し、実装まで導く総合力」を獲得することにあります。

デロイトトーマツのパートナーであるジョン・マイヤーズ氏は、「これからのコンサルティングは“アドバイス”ではなく、“体験を共に創る”ものになる」と語っています。この言葉は、従来のコンサルタント像を大きく塗り替えるものであり、クライアントと共に未来を設計する能力こそが新たな競争軸であることを示しています。

さらに、デザイン思考を導入した企業群は、収益性でも明確な差を出しています。米Design Management Instituteの調査によると、デザインを経営の中核に据える企業群は、S&P500平均を10年間で228％も上回る株主価値を創出しました。

つまり、マッキンゼーやアクセンチュアが買収で狙うのは単なるトレンドではなく、「デザイン＝経営成果」への確信です。これこそが、次世代コンサルタントが身につけるべき新しい戦略思考なのです。

日本が進める「デザイン経営」とは？国家戦略としての新潮流

日本では今、「デザイン経営」が国家戦略として注目されています。これは2018年に経済産業省と特許庁が公表した「デザイン経営宣言」をきっかけに広がった概念で、デザインを経営の中核に据えることで企業価値を高めるという考え方です。かつての日本企業が「技術力」で世界をリードしたように、これからの時代は「体験価値」と「創造力」が競争力の源泉になると明言されています。

この政策の狙いは、単なる美的デザインの奨励ではありません。企業が抱える課題をデザイン思考で解決し、経営戦略そのものを再構築することを目的としています。たとえば、無印良品（良品計画）はその代表的な成功事例です。無印はデザインを「生活者の視点で考える経営思想」と位置づけ、商品開発から店舗体験、ブランド戦略に至るまで一貫して統合。結果として、世界30カ国以上に展開するグローバルブランドへと成長しました。

また、デザイン経営の導入企業は業績面でも明確な差を見せています。経産省の調査によると、デザインを経営戦略に取り入れた企業は、未導入企業と比較して営業利益率が約1.7倍、ブランド価値指標が約2倍高いという結果が出ています。

さらに、各地方自治体やスタートアップにもこの潮流は広がっています。福岡市では行政のデジタル化プロジェクトにデザイン思考を導入し、市民参加型のサービス設計を推進。結果として、市民満足度が向上し、行政コストも削減されています。

デザイン経営の基本要素は以下の3つに整理できます。

  • ビジョンとブランドを統合する「トップのデザイン意識」
  • 組織全体で共創を促す「プロセスデザイン」
  • 顧客体験を中心に据える「UX視点の経営」

これらを実践する企業が増えるにつれ、日本企業のイノベーション力は再び世界で評価され始めています。

今後、コンサルタントを目指す人にとって、デザイン経営の理解は「経営を翻訳する力」を意味します。数値だけでなく、顧客の感情や文脈を戦略に落とし込むスキルが、未来のコンサルタントの必須条件になるのです。

AI×デザイン思考：次世代コンサルタントに求められるスキル変革

AI技術の発展によって、コンサルティング業界も大きな転換期を迎えています。データ分析や市場予測など、これまで人間が担ってきた多くの作業はAIが代替可能になりました。こうした時代において求められるのは、「AIにはできない創造的戦略構築力」です。

その中核を担うのが「AI×デザイン思考」という新しいアプローチです。デザイン思考は人間の共感力と直感を基軸とする一方、AIは膨大なデータからパターンを抽出し、洞察を提供します。この二つを融合させることで、これまで見えなかった課題を発見し、より精度の高い戦略設計が可能になります。

たとえば、IDEOはAIツールを活用してユーザー行動データを解析し、より深いインサイトを導き出す「Augmented Design」を導入しています。人間の直感と機械の分析を掛け合わせることで、プロトタイプの成功率を飛躍的に高めました。

AI×デザイン思考によってコンサルタントが得られる主要スキルは以下の通りです。

スキル領域内容成果
データ洞察力AIを用いた行動・感情データの分析潜在ニーズの可視化
ストーリーテリングデータを人間の文脈で翻訳クライアント納得度の向上
迅速なプロトタイピングAI生成によるアイデア検証戦略実行までの時間短縮

さらに、マッキンゼー・デジタルが行った調査によれば、AIを活用してデザイン思考を取り入れた企業は、導入初年度でROIが平均20〜30％改善したという結果も出ています。

これからのコンサルタントに必要なのは、データを読み解くだけでなく、「人と機械の橋渡し役」になるスキルです。AIの提示する最適解を鵜呑みにするのではなく、人間の感情や社会的背景を踏まえて意思決定に反映させることが重要です。

AI時代においても、最後の判断を下すのは人間です。だからこそ、論理と創造を統合できるデザイン思考型コンサルタントが、次の時代のビジネスリーダーになるのです。

ROIで語るデザインの力 ― 数字で証明される創造性の経済価値

コンサルティングの世界では、デザインや創造性という言葉が“感覚的”だと捉えられがちです。しかし近年、その価値は明確に数値化され、ROI（投資対効果）で評価できる経営資産として注目されています。デザインは感性の領域を超え、企業の収益性や成長率を押し上げる要因として定量的に証明されているのです。

デザインマネジメント研究機関であるDesign Management Institute（DMI）の調査によれば、デザインを経営の中核に据えた企業群（いわゆるDesign-Driven企業）は、S&P500の市場平均を10年間で228%も上回る株主価値を創出しました。つまり、デザインへの投資は単なるコストではなく、持続的な収益を生み出す“経営資本”になっているのです。

さらに、マッキンゼーが発表した「The Business Value of Design」では、世界300社以上の企業を対象に分析した結果、デザイン成熟度の高い企業は低い企業に比べて売上成長率が32%、株主リターンが56%高いという結果が示されています。このデータは、「デザイン＝感覚的な価値」という従来の認識を根本から覆すものでした。

指標デザイン活用企業非活用企業
売上成長率+32%±0〜5%
株主リターン+56%+16%
顧客ロイヤルティ+41%+9%

デザインがここまでの成果を生む理由は、単に見た目を整えるからではありません。優れたデザインは、顧客体験を最適化し、意思決定を促し、ブランドへの信頼を高める「行動設計」を担っているからです。これは心理学的にも裏付けられており、ハーバード・ビジネス・レビューの調査では、体験設計が優れた企業は顧客維持率が平均で83%に達することが報告されています。

また、国内でもデザイン投資の経済効果が可視化されつつあります。トヨタはUXデザインを中心とした顧客体験強化プロジェクトを推進した結果、販売後の顧客満足度が前年比18%上昇し、再購入率が20%改善しました。さらに、パナソニックは社内に「デザイン本部」を設置し、デザイン主導で商品開発を行う体制に転換。これにより、新製品の市場投入スピードを平均25%短縮することに成功しています。

このように、デザインをROIで語る時代が到来しています。特にコンサルタントにとって重要なのは、デザインを“見た目”として扱うのではなく、「数値化できる戦略ツール」として位置づけることです。

デザインの成果を正確に測定するためには、次の3つの視点が欠かせません。

  • 顧客体験（CX）やブランド評価指標の定期的モニタリング
  • デザイン投資額と売上・ロイヤルティの相関分析
  • プロトタイプ段階での定量的ユーザーテストの実施

デザインはもはや“感性の領域”ではなく、“経済合理性のある戦略資産”です。数値で語れるデザインこそ、これからのコンサルタントがクライアントに提供すべき最強の武器になるのです。