近年、コンサルティング業界は従来の「効率化」や「収益最大化」を中心とした役割から大きく変化しつつあります。気候変動、地方創生、医療費の増大といった複雑な社会課題に対し、ビジネスの力で解決策を生み出すことが求められるようになり、企業側のニーズも急速に拡大しています。

世界のサステナビリティ・コンサルティング市場は2034年に約3,000億円へ倍増すると予測され、日本でもDXと並んでSXへの投資が進むなど、追い風は強まるばかりです。こうした中で、主要コンサルファームは独自の戦略を展開し、社会課題に本気で向き合うプロジェクトが急増しています。

本記事では、実際のプロジェクト事例や各ファームの最新動向、さらに必要とされるスキルやキャリア形成のヒントまで、次世代のコンサルを目指すあなたが知っておくべき重要ポイントを分かりやすく整理します。これからのキャリア選択に必ず役立つ知見を得られるはずです。

インパクト・エコノミーが拓く新しいコンサルティングの役割

インパクト・エコノミーの台頭は、コンサルティング業界にこれまでとは質的に異なる役割を求めています。ステークホルダー資本主義への移行について名和高司氏の議論によれば、企業は経済価値と社会価値を同時に高める存在へと変わりつつあります。この変化は、コンサルタントが扱うテーマをコスト削減や業務改善中心の領域から、企業の存在意義の再構築や社会課題解決の仕組みづくりへと拡張させています。

特に世界のサステナビリティコンサル市場が2034年に約19億5,400万米ドルへと倍増するという360 Research Reportsの予測は、社会課題領域が一時的な流行ではなく構造的な市場成長であることを示しています。

社会課題が「外部要因」ではなく企業価値を決める「中核戦略」へと移り、コンサルタントはその変革を設計・実装する主体として位置づけられています。

この流れを支える仕組みとして、インパクト投資の急拡大があります。SIIFの報告によると日本のインパクト投資残高は2024年時点で約17兆円に達し、金融庁もフォーラム設置を通じて制度整備を加速させています。資金が社会課題解決に向かうほど、企業はインパクト創出を事業価値として説明する必要が生まれ、そこでコンサルタントの役割が一段と重くなります。

  • 経営戦略と社会価値を統合するパーパス策定支援
  • ESG・インパクト評価の導入と投資家への説明力強化
  • 社会課題を起点とした新規事業・市場創造

たとえばデロイトが掲げる「経済合理性のリ・デザイン」という考え方は、社会課題をコストではなく投資として扱う仕組みづくりを重視しています。またPwCが進める「New Regularity」は、官民連携による新しいルール形成を通じて産業構造そのものを刷新するアプローチです。さらにKPMGが地方自治体と連携しスマートシティを推進する取り組みは、地域単位での価値創造を実装するモデルとして注目されています。

インパクト・エコノミーが広がる今、コンサルタントはクライアントの変革を支援する「助言者」から、社会システムそのものを共に設計する「共同設計者」へと役割を進化させています。そしてこの変化は、コンサルティングを志望する人にとって、社会的意義と専門性を同時に追求できる新たなキャリアフロンティアを開きつつあります。

サステナビリティ・コンサル市場の成長と拡大するビジネスチャンス

サステナビリティ・コンサル市場の成長と拡大するビジネスチャンス のイメージ

サステナビリティ・コンサル市場は、単なる流行ではなく世界的な構造転換の中心に位置づけられています。360 Research Reportsによれば、世界の企業サステナビリティコンサルティング市場は2025年に約10億5,455万ドルとなり、2034年には約19億5,400万ドルへ拡大する見通しです。この成長率は年間7%超と安定しており、コンサルティング業界の中でも稀に見る持続的な拡張フェーズにあります。

国内でも、PR TIMESの分析が示すように2022年度のコンサル市場は前年比16%増の1.8兆円規模へ拡大し、特にDXと並ぶ形でSX投資が急増しています。企業側のニーズが本質的に変化し、「環境対応はコスト」から「サステナビリティは成長戦略」へと認識が転換したことが背景にあります。

市場の拡大は、社会課題領域で働きたい志望者にとって、専門性を発揮しながらキャリアを積み上げるチャンスが飛躍的に広がっていることを意味します。

さらに、SIIFの調査では日本のインパクト投資残高が17兆円規模へ拡大しており、金融庁も公式にインパクト投資の推進を進めています。この資金流入は、ESG評価、インパクト測定、サステナブルファイナンス戦略など、従来にはなかった新しいコンサル需要を生み出しています。

領域 主な成長要因
SX戦略 規制強化・パーパス経営の浸透
インパクト投資 金融庁主導の制度整備
市場コミュニケーション 若年層を中心とした社会意識の高まり

特に注目すべきは、サイバー・バズが示すソーシャルメディアマーケティング市場の急成長です。2024年には1兆2,038億円に到達し、2029年には2兆円超が見込まれています。社会課題に敏感な若年層が購買を牽引する時代では、企業は自らの環境・社会への姿勢を示す必要があり、ここにコンサルタントが介在する余地が急速に拡大しています。

  • 成長領域で専門性を磨きたい志望者にとって極めて有望
  • ESGとビジネスが完全に統合される時代の中心で働ける

こうした複合的なトレンドが重なり合うことで、サステナビリティ・コンサルは単なるニッチ領域ではなく、ビジネスと社会を同時に変革する巨大なフロンティアへと成長しています。

主要コンサルファームの最新戦略:Deloitte・PwC・KPMG・JRIの比較

主要コンサルファームは、急拡大するサステナビリティ市場に対し、それぞれ独自の戦略軸を打ち出しています。世界のサステナビリティコンサル市場は360Research Reportsによれば2034年に約3,000億円規模へ倍増すると予測され、日本国内でもDXと並ぶSX投資が急増しています。この環境変化の中で、Deloitte、PwC、KPMG、JRIは明確に異なるポジショニングを形成しています。

まずDeloitteは経済合理性の再設計を核に据え、社会課題の解決を「コスト」ではなく「投資」に変換するモデルを徹底しています。特にWorldClassでは2030年までに1億人のスキル向上を掲げ、Acumenのリーンデータを取り入れた厳密なインパクト測定を行っています。これは「測れる社会価値」を設計できる点で志望者に大きな示唆を与えます。

社会課題を“ビジネスとして成立させる力”を最も重視しているのがDeloitteであり、データドリブンなインパクト志向が特徴です。

PWCはNew Regularityという新基準を掲げ、官民連携を通じた制度設計に深くコミットしています。デジタル庁創設やスマートシティ構想の上流工程に関与し、PwCサステナビリティ合同会社に代表されるようにSX人材の育成も強化しています。制度・政策に影響を与える「ルールメーカー」としての色が濃い点が他社との差分です。

  • KPMGは地方創生・地域共創に強く、自治体との包括連携協定を軸にスマートシティや地域DXを推進しています。
  • 特に宇都宮市や長野市との協業に見られるように、地域課題の構造的解決をワンストップ体制で支援する点が特徴です。

一方、日本総研(JRI)はシンクタンクと事業実行主体を兼ねるDo-Tankとして異彩を放っています。創発戦略センターでは自ら事業主体となり、民間・自治体を巻き込んだコンソーシアム形成から実証、事業化まで一気通貫で推進します。90年代の環境ビジネスや2000年代のPFIなど「市場そのものを作る」歴史を持ち、実践志向のキャリアを目指す人に強く響くモデルです。

ファーム 戦略軸 特徴
Deloitte 経済合理性のリデザイン 厳密なインパクト評価と社会課題の事業化
PwC 制度設計と公共政策 官民連携とSX人材育成
KPMG 地域共創 自治体連携とスマートシティ支援
JRI Do-Tank型実践 事業組成・実装まで担う独自性

これらの違いを理解することは、志望者にとって「自分の価値観とどの戦略が最も整合するか」を見極める重要な手がかりとなります。

社会を動かすプロジェクトの現場:SIB・地方創生・サーキュラーエコノミー

社会を動かすプロジェクトの現場:SIB・地方創生・サーキュラーエコノミー のイメージ

社会を動かすプロジェクトの現場では、SIBや地方創生、サーキュラーエコノミーが互いに連動しながら新しい公共価値を生み出しています。特にSIBは、行政が成果に基づいて支払う仕組みとして注目され、神戸市や八王子市の事例はSIIFによれば国内の成功モデルとして位置づけられています。こうしたプロジェクトでは、データ分析と成果指標設計が中核を占め、コンサルタントの専門性が事業成否を左右します。

地方創生の領域では、デロイトがFC今治と連携した取り組みが象徴的です。地域に常駐し住民と対話しながら都市開発や教育事業まで支援する伴走型アプローチが特徴で、PwCのPublic Services領域が指摘する官民協働の重要性とも共鳴しています。このように地域固有の資源を活かしたまちづくりは、政策形成とビジネスの融合点として進化しています。

社会課題の現場では、行政・企業・住民をつなぐコンサルタントの調整力が最も強く問われます。

サーキュラーエコノミーでは、アミタが川崎市・花王と進めた廃プラスチック循環実証が、経産省資料によれば先進的モデルとして評価されています。メーカーとリサイクル事業者の商習慣の差を乗り越え、追跡可能な資源循環システムを構築する役割を担ったことは重要な示唆を与えます。

領域 特徴 コンサルの役割
SIB 成果連動型の行政事業 KPI設計とデータ分析
地方創生 地域密着・官民連携 伴走支援と合意形成
サーキュラーエコノミー 資源循環の再構築 ステークホルダー調整

これら三領域に共通するのは、社会システムの再設計を実行段階まで落とし込む力です。特にインパクト経済圏が拡大する現在、プロジェクトの現場で得られる経験は、コンサルタント志望者にとって高度な実践知となり、自らのキャリアを社会変革の中心に置く強力な武器になります。

求められる次世代コンサルタント像:SX人材のスキルセットと成長ストーリー

SX人材としての次世代コンサルタントは、単なる分析能力や戦略立案力だけではなく、社会システムそのものを再設計する力が求められています。PwCサステナビリティ合同会社が示すように、企業がSXを生存戦略として位置づけ始めた今、コンサルタントの能力要件は構造的に変化しています。特に近年のインパクト投資の急増を踏まえると、社会的成果を定量的に証明する力は不可欠です。

インパクト・メジャメントの領域では、大阪大学などの研究者が推進するSROIやロジックモデルによる成果測定が普及しつつあり、デロイトが導入するリーンデータのように、生活者に直接アクセスして価値を測るアプローチも広がっています。こうした潮流の中で、次世代コンサルタントには「社会的成果を科学的に可視化できるスキル」が求められています。

社会課題は利害関係者が多く、正解が明確でないため、マルチステークホルダーの合意形成を促す調整力が次世代コンサルタントの核となります。

SIIFによれば、国内のインパクト投資残高は17兆円規模にまで拡大しており、行政・金融・市民社会・企業を横断する連携が不可避となりました。KPMGが地方自治体との包括連携協定を通じて示すように、地域住民や企業を巻き込みながら持続可能なモデルを構築するスキルは、今後ますます重要性を増します。

  • 社会的インパクト評価スキル
  • 異質な価値観を束ねるファシリテーション能力

さらに、SX人材の中核となるのがテクノロジー理解です。PwCが強調するように、データ分析やAIは社会課題の解決スピードと精度を劇的に向上させます。特にDXを絡めた社会インフラ再構築の現場では、老朽化したシステム刷新が社会全体の安定を左右し、技術的知見とPMO能力の両立が必須となっています。

こうしたスキルを統合することで、次世代コンサルタントは複雑な社会課題を「測り」「つなぎ」「実装する」実行力を備えたSX人材へと進化していきます。これは単なる専門性の獲得ではなく、自らの成長が社会の変化と地続きになる成長ストーリーそのものです。

ポストコンサルの未来:社会起業家・インパクトリーダーへのキャリアパス

コンサルティングファーム出身者が社会起業家やインパクトリーダーへと転身する動きは、近年のインパクト投資拡大やサステナビリティ潮流と相まって、確かなキャリアパスとして確立しつつあります。特にSIIFによれば日本のインパクト投資残高が17兆円規模へ拡大したことで、社会課題解決に挑む事業に流入する資金が増え、ポストコンサルの挑戦機会は質量ともに拡大しています。

こうした背景を踏まえ、ファームで培った分析力・事業設計力・ステークホルダーマネジメント力を武器に、独立後に社会的事業をスケールさせるケースが増えています。マッキンゼー出身でクロスフィールズを設立した小沼大地氏のように、企業人材を新興国NGOに送り込む留職プログラムを仕組み化した例は象徴的です。オルタナの書評によれば、小沼氏はコンサルで鍛えた構造化能力を活かし、複数国で事業を展開できる運営体制の構築に成功しています。

社会的インパクトの創出は感情の熱量だけで成立せず、ビジネスロジックと実装力を兼ね備えた人材こそが成果を持続的に積み上げられる点が、ポストコンサル像の核心です。

一方、インパクト領域で活躍するポストコンサルにはいくつかの特徴があります。第一に、J-CSV理論を提唱する名和高司氏が強調するように、「社会の役に立つために経済価値を高める」という思想を事業の中心に据える姿勢です。第二に、複数ステークホルダーを巻き込む統合的アプローチで、Ridiloverの安部敏樹氏のように、現場NPOと企業を結びつけるハブとして機能するタイプも存在します。

  • 社会課題の構造を捉える分析力
  • 事業化まで導く実装力と資金調達力
  • 多様なステークホルダーを束ねる合意形成力

また、独立後のキャリアは社会起業家に限られず、ESG担当のCSO、インパクト投資家、公共系プロジェクトの事業責任者など多岐に広がっています。ムービンの調査でも、コンサル出身者が企業のサステナビリティ部門やPEファンドに転じる例が継続的に増加しているとされ、キャリアの流動性そのものが高まっています。

特に、ラクスルを創業した松本恭攝氏のように、既存産業構造を刷新するビジネスを生み出すケースは、インパクト領域での事業創造力が高く評価された好例です。A.T.カーニーで鍛えた戦略構築力が、印刷の遊休資産を活用するシェアリングモデルの発想につながったとフォルトナは分析しています。

こうした動きを総合すると、ポストコンサルは社会課題解決の最前線で活躍するリーダーへと進化しており、ファーム経験が単なる前職ではなく、社会変革を実装するための実践的トレーニングとして機能していると言えます。成長するインパクト・エコノミー市場と相まって、このキャリアパスは今後さらに主流化していくはずです。

社会変革を担うキャリアを実現するためのステップと心構え

社会変革を担うキャリアを実現するためには、知識やスキルだけでなく、複雑な課題に向き合い続けるための姿勢が重要になります。特にインパクト投資が17兆円規模へ拡大しているとSIIFが示すように、社会課題領域は今後も構造的に成長し続けるため、早期に環境へ身を置くことが大きな差を生みます。

第一に欠かせないのは、自分が向き合いたい領域を具体化するプロセスです。大阪大学が整理するロジックモデルの考え方に基づき、課題の原因と結果を言語化し、自分が価値を発揮できる介入ポイントを探ることで、キャリア選択が明確になります。この思考法は、成果が見えにくい教育や医療領域でも効果的に使われています。

社会課題領域でキャリアを築くうえで重要なのは、正解のない状況でも仮説を立て続ける粘り強さと、異なる価値観を統合する姿勢です。

次に必要となるのが、多様なステークホルダーとの協働経験です。PwCが官民連携の上流工程に参画する背景には、行政・企業・市民の利害を整理し、共通の基準をつくる能力が不可欠であるという認識があります。実際、社会課題領域のプロジェクトでは、技術よりも合意形成がボトルネックになる場合が多く、学生時代や前職での小さな協働経験でも大きな武器になります。

  • 領域への深い理解と問いの設定力
  • 利害調整を進める対話力と協働姿勢

また、キャリアの早期からインパクト評価の思考に触れておくことも効果的です。Acumenが用いるリーンデータ手法が示すように、現場の顧客の声を定量化する姿勢は、コンサルタントとしての分析力を大きく引き上げます。特に、社会価値を数値で語れるようになることは、経営層を動かす説得力につながります。

最後に、変革の現場に身を置く小さな実践を継続することが、長期的な成長の基盤になります。KPMGが地域に常駐しながら地方創生を支援するように、現場の温度感を理解したコンサルタントほど意思決定の質が高くなります。小規模でも、自分が直接関与したプロジェクトを持つことが、社会変革の当事者としての視点を育てます。