コンサルティング業界は、今や日本のビジネス変革を支える中核的な存在となっています。中でも「Big4」と呼ばれるEY、KPMG、PwC、デロイトの4社は、グローバル規模で企業の未来を形づくるプレイヤーです。
しかし、同じBig4の中でも各ファームの文化や強み、キャリアの方向性は大きく異なります。特にEYとKPMGは、どちらも信頼性と実績で高い評価を受ける一方で、「急成長を続ける変革型のEY」と「安定と誠実を重んじる実践型のKPMG」という対照的な個性を持っています。
本記事では、両社の最新データやグローバル戦略、国内での成長動向、そして内部のカルチャーや報酬体系までを徹底的に比較分析します。
数字と事実に基づいた情報をもとに、あなたがどのファームで自分の可能性を最大化できるのかを見極める手助けをします。
これからのコンサルタント人生を決める最初の選択を、確かな情報と戦略的思考で導く——そのための実践的ガイドです。
はじめに:コンサルティング業界を目指すあなたへ

コンサルティング業界は今、AIやデジタル変革の波の中で劇的な進化を遂げています。特にBig4と呼ばれるEY、KPMG、PwC、デロイトは、企業の経営改革やDXを支援する中核的プレイヤーとして存在感を高めています。
その中でもEYとKPMGは、共にグローバルで数十万人規模の人材を抱え、日本でも急速に影響力を拡大しています。しかし両社の特徴はまったく異なります。EYは「変革を推進する成長型」、KPMGは「誠実さと専門性を重視する安定型」と評されることが多く、自分の価値観や働き方次第でどちらが適しているかは大きく変わります。
また、VaultやForbesの調査によれば、EY-Parthenonは戦略コンサルティング分野で高い評価を受け、KPMGは金融・リスク管理分野で圧倒的な信頼を築いています。これは、両社がそれぞれ異なる方向で専門性を深化させている証拠です。
本記事では、EYとKPMGのグローバル規模や日本での成長戦略、サービス構成、文化、そしてキャリア形成の違いまでを徹底比較します。
これからコンサルタントを目指す方にとって、どのファームが自分の成長に最も適しているのかを明確にするための指針となる内容です。
数値とエビデンスに基づき、感覚ではなく「データで選ぶキャリア戦略」を伝えます。
EYとKPMGのグローバルスケール比較:数字が語る実力差
世界のプロフェッショナルファームの中でも、EYとKPMGは常にトップクラスの存在としてしのぎを削っています。グローバル規模での業績を比較すると、その構造的な差が見えてきます。
| 指標 | EY (FY2024) | KPMG (FY2024) |
|---|---|---|
| 総収入 | 512億米ドル | 384億米ドル |
| 総人員数 | 約40万人 | 約27.5万人 |
| 展開国数 | 150以上 | 142 |
| コンサルティング部門収益 | 156億米ドル | 154.4億米ドル (アドバイザリー全体) |
このデータから明らかなように、EYはグローバル収益でKPMGを約33%上回り、特にコンサルティング部門単体で他社を圧倒する規模を誇っています。EYが「EY.ai」などのAIプラットフォームに巨額投資を続けているのは、この資本力の裏付けがあるからです。
一方のKPMGは、監査・税務・法務の強固な基盤を持つことが特徴です。アドバイザリー領域の成長率は安定的であり、監査法人あずさとの連携を武器に、金融リスク・コンプライアンス領域で高い信頼を築いています。
EYの成長戦略は「変革のスピード」と「テクノロジー投資」に重きを置くのに対し、KPMGは「品質と信頼性」「リスク管理力」に価値の軸を置いています。
両社のスタンスは、次のように整理できます。
- EY:変革を先導し、AI・DXを中心にグローバルで成長を追求する
- KPMG:監査の伝統をベースに、リスクと品質を極める実務志向のファーム
Vaultランキング(2025年)では、EY-Parthenonがアジア太平洋地域のPrestige部門で8位にランクイン。KPMGはトップ12圏外でしたが、Forbesの「World’s Best Management Consulting Firms」では両社とも戦略コンサルティング部門で最高評価の5つ星を獲得しています。
つまり、EYは業界内でのブランド力を、KPMGはクライアントからの信頼を強みにしていると言えます。
コンサルタントを目指す上で、この違いは非常に重要です。EYは変革の最前線で挑戦する環境、KPMGは堅実な実務経験と長期的な成長を積み重ねる環境。
どちらを選ぶかは、「スピードと挑戦」か「安定と専門性」か、自身のキャリアビジョンに直結します。
日本市場での存在感と成長戦略:両社のリアルな現在地

日本におけるEYとKPMGの競争は、単なるグローバル勢力の延長ではなく、独自の戦略的展開を伴う“国内戦略の勝負”です。両社の存在感は、組織規模、成長スピード、事業構造のすべてにおいて明確な違いを見せています。
| 比較項目 | EY Japan | KPMGジャパン |
|---|---|---|
| グループ代表 | 貴田守亮(チェアパーソン兼CEO) | 山田裕行・知野雅彦(共同チェアマン) |
| コンサルティング代表 | 近藤聡 | 宮原正弘 |
| 国内業務収入 | 約2,547億円(2024年度) | 約1,700億円(2022年度) |
| コンサル部門売上 | 約800億円超(2023年度) | 非公開 |
| コンサル人員数 | 約4,501名(2024年時点) | 約1,795名(2023年時点) |
| 主拠点 | 東京ミッドタウン日比谷 | 大手町フィナンシャルシティ |
| 国内事務所数 | 16事務所+1連絡所 | 主要都市に展開 |
EY Japanは、特にコンサルティング部門「EYストラテジー・アンド・コンサルティング(EYSC)」が急拡大しており、2023年度には前年比約30%増の800億円超の売上を記録しました。
この成長を牽引するのが、元デロイトトーマツコンサルティング代表の近藤聡氏です。大胆な採用戦略と、AI・データ・サステナビリティ領域への重点投資により、EYは若手人材の獲得と育成を両立し、業界内での勢力を急速に拡大しています。
一方、KPMGジャパンは伝統的に金融・リスク・ガバナンスに強みを持ち、監査法人あずさを中心とした信頼ネットワークを維持しています。最近では、脱炭素支援、ESGコンサルティング、官公庁のDXプロジェクトなどを拡充し、公共・社会的課題解決型のプロジェクトで存在感を高めています。
EYはスピードと変革志向、KPMGは信頼と実務志向。
この対照的なポジショニングが、クライアント層の違いにも直結しています。EYは新興企業やデジタル変革を急ぐ大手企業に強く、KPMGは規制業種・金融・公共領域での安定支援を得意としています。
市場分析では、EYは「変化のエンジン」、KPMGは「信頼の要」として位置付けられています。
サービス内容と専門領域の違い:どんな案件で活躍できるのか
両社のコンサルティングサービスは、似て非なる構造を持っています。共通しているのは戦略から実行支援までを一貫して担う点ですが、アプローチや領域の深さには明確な違いがあります。
戦略コンサルティングの方向性
EYは「EY-Parthenon」という強力なブランドのもと、企業戦略、M&A戦略、価値創造など、経営層に近いテーマを中心に展開しています。チームはフラットな構造で、海外拠点との横断的連携が強みです。
一方KPMGは、戦略立案から実行、リスクマネジメントまでを一体化する統合型アプローチを採用しています。特にCxOクラスと直接向き合う案件が多く、理論より実務を重んじるスタイルです。
M&A・トランザクションの強み
EYのSaT(Strategy and Transactions)部門は、ディールの全ライフサイクルをカバーし、クロスボーダー案件で強みを発揮しています。世界150カ国以上の連携体制により、買収後のPMI(統合プロセス)まで支援できるのが特徴です。
KPMGのFAS(Financial Advisory Services)は、監査と税務の専門知識を活かし、ディールのリスク分析・財務モデリングに強みを持ちます。金融機関とのネットワークを生かした「慎重かつ確実な取引支援」が高く評価されています。
テクノロジーとESG領域
EYはAIやデータ分析、サステナビリティ戦略支援に注力し、「EY.ai」などの独自プラットフォームを展開しています。近年は脱炭素化やサプライチェーン最適化など、社会課題と経済価値を両立させるプロジェクトが急増中です。
KPMGはESGアドバイザリーや内部統制・リスク評価に強みを持ち、官公庁や金融庁関連の大型案件が多いのが特徴です。AIリスク評価やガバナンス設計の分野では国内トップクラスの実績を誇ります。
キャリア視点からの比較
- EY:グローバル志向、スピード感、変革への挑戦を重視する人に向く
- KPMG:実直で誠実な姿勢、専門性の深化、長期的信頼構築を志す人に向く
挑戦と安定、どちらを軸にキャリアを築くか。
この選択が、EYかKPMGかを決める最大の分岐点になります。どちらも一流の環境ですが、自分の「成長の型」に合ったフィールドを選ぶことが、真のプロフェッショナルへの第一歩です。
企業文化と働き方の本質:「青い誠実」と「多様な挑戦」

コンサルティング業界を志す上で、見落とされがちなのが企業文化の違いです。EYとKPMGは同じBig4でありながら、その働き方や価値観の根底にある哲学がまったく異なります。自分に合ったファームを選ぶためには、この「文化の本質」を理解することが欠かせません。
EYのカルチャー:多様性と挑戦を軸にしたグローバル志向
EYは「Building a better working world」というビジョンのもと、多様な人材が協働する文化を重視しています。特にEYストラテジー・アンド・コンサルティング(EYSC)では、出身業界・国籍・バックグラウンドが異なる人材が多数在籍しており、「挑戦と変革を肯定する文化」が根付いています。
職場環境は非常にフラットで、入社1年目のアナリストでも役員クラスに意見を伝える機会があります。プロジェクト単位での意思決定が早く、失敗よりも「行動しないこと」を問題視する傾向があります。
また、グローバルモビリティ制度を通じて、海外オフィスでの勤務経験を積む社員も多く、実際にEY Japan社員の約15%が海外プロジェクトに参画しています。
社員インタビューによると、EYでは「自分のキャリアを自分で設計する」自由度が高く、AI、気候変動、デジタル戦略など新領域への挑戦を後押しする風土が整っています。「やりたいことを実現する力が育つ会社」と語る若手社員も少なくありません。
KPMGのカルチャー:誠実さと一貫性を重んじるプロフェッショナル主義
KPMGは、創業以来「誠実・信頼・品質」を軸に据えたカルチャーを守り続けています。その象徴ともいえるのが、社内で「Blue Culture(青い誠実)」と呼ばれる精神です。
これは、短期的な利益ではなく、クライアントと社会に対する長期的価値の提供を重視する姿勢を意味します。
KPMGコンサルティングでは、個々の成果よりも「チームとしての信頼関係構築」が重視され、協調的な環境が築かれています。働き方においても、残業時間の可視化やリモート勤務制度が整備され、「働きやすさ」と「専門性の深化」を両立させる文化が評価されています。
また、育成体制にも特徴があり、KPMGはグローバルトレーニングセンター「KPMG Business School」を活用し、全世界共通の教育プログラムを提供しています。倫理・リスク・マネジメント教育の徹底は、業界内でも高水準です。
比較まとめ
- EY:多様性とスピード感を重視。変革・挑戦志向が強い
- KPMG:誠実さと品質を重視。専門性と信頼構築が軸
- EYは「行動する自由」、KPMGは「信頼を積み上げる安定感」
どちらの文化に共感できるかが、長期的なキャリア幸福度を左右します。
キャリア・報酬・成長機会:どちらがあなたを最速で伸ばすのか
コンサルタントとしてのキャリアを考えるとき、報酬や評価制度だけでなく、「どのように成長できるか」が最重要です。EYとKPMGは報酬構造こそ似ていますが、成長スピードやキャリア設計の自由度には大きな差があります。
| 項目 | EY Japan | KPMGジャパン |
|---|---|---|
| 初任給(新卒) | 約600万円前後 | 約550万円前後 |
| 昇進スピード | 実力主義、年功序列なし | 安定的、段階的評価 |
| 教育制度 | EYU(EY University)による体系的トレーニング | KPMG Business Schoolによる専門教育 |
| キャリア展開 | グローバル・他部門への転籍が活発 | リスク・監査・税務との協働機会が豊富 |
| 平均年収(コンサル) | 約950万円 | 約850万円 |
EYのキャリアモデル:スピードと挑戦のステージ
EYでは実力があれば20代後半でマネージャー職に昇進することも珍しくありません。昇格審査では成果とリーダーシップが重視され、年齢よりも「どれだけ組織を動かしたか」が評価されます。
また、EYU(EY University)を通じてAI・サステナビリティ・リーダーシップなどの講座を受講でき、社外でも通用するスキルが身につく環境です。
特にEYの特徴は、「社内異動の自由度」です。戦略部門からデータアナリティクス、サステナビリティ部門への横断的キャリアが可能で、自分の興味に応じて軸を広げることができます。キャリアの可能性を自ら設計できる環境が、若手層に人気の理由です。
KPMGのキャリアモデル:専門性と信頼を積み上げる道
KPMGでは、専門分野の深掘りを通じて「信頼されるプロフェッショナル」を育成します。キャリア形成は段階的で、まずアソシエイトとして基礎を固め、マネージャー以降に特定領域(リスク・金融・ESGなど)の専門家として独立性を持つ形に成長します。
内部昇進率が高く、離職率が低い点も特徴です。長期的に安定して専門性を磨きたい人に適した環境です。
報酬と働きがいの相関
EYは成果主義色が強く、ボーナスもプロジェクト成果に直結します。短期間で大幅な昇給が可能な反面、プレッシャーも大きい傾向です。
KPMGは年功的要素が残りつつも、チーム評価を重視するため、安定した収入とワークライフバランスを両立しやすい構造です。
EYは挑戦で伸びる環境、KPMGは信頼を積み上げる環境。
どちらが「自分らしい成長」を支えるのかを見極めることが、ファーストキャリアの成功を左右します。
リスクマネジメントと企業倫理:信頼の源泉をどう築いているか
コンサルティング業界において「信頼」は最大の資産です。クライアントが数億円規模のプロジェクトを委ねる背景には、その企業のリスク管理体制と倫理観への信頼があります。EYとKPMGはどちらも厳格なガバナンス体制を持ちますが、そのアプローチは驚くほど異なります。
EY:テクノロジーを軸にした先進的リスクマネジメント
EYはリスクマネジメントを単なる「監視機能」ではなく、戦略的価値創造の一部と位置づけています。グローバルで導入されている「EY Risk Transformation Framework」では、AIとデータ分析を活用してリスクの早期検知とシミュレーションを行っています。
特にサイバーセキュリティとESG(環境・社会・ガバナンス)リスク管理に注力しており、2024年度には日本国内でESGリスク・アセスメント案件が前年比40%以上増加しました。EYの担当パートナーは「リスクとは避けるものではなく、経営戦略の一部として最適化すべき対象」と語っています。
また、EYは「AI倫理ガイドライン」を策定し、生成AIや自動意思決定に関する倫理リスクをグローバル全社で監督しています。これは、デジタル時代のコンサルティング企業として透明性と説明責任を果たすための重要な取り組みです。
KPMG:倫理と監査品質に根ざしたリスク文化
KPMGはその歴史的ルーツから「品質と倫理」を中核に据えています。全世界で統一された「KPMG Quality & Risk Management(QRM)」体制により、プロジェクトの各段階で独立したレビューを実施。これにより、外部監査水準に近い内部監査をコンサルティングにも適用しています。
特にKPMGジャパンは、金融リスク・ガバナンス・コンプライアンスの分野で国内トップクラスの実績を持ち、2024年度の官公庁向けリスクアドバイザリー案件数は前年の約1.6倍に増加しました。
KPMGのリーダーは「信頼はスピードよりも重い」と語り、長期的な関係構築を最優先としています。
倫理教育にも徹底的で、全社員が毎年「倫理・独立性トレーニング」を受講します。EYが「革新による信頼」を築くのに対し、KPMGは「誠実さと一貫性による信頼」を積み上げています。
比較のポイント
| 観点 | EY | KPMG |
|---|---|---|
| リスク管理の軸 | データドリブン・AI分析 | ガバナンス・品質保証 |
| 倫理・透明性 | AI倫理・ESG指針を明文化 | 倫理研修・独立性レビュー徹底 |
| 強み | 未来志向のリスク最適化 | 長期的信頼構築と品質重視 |
EYは「未来を読む信頼」、KPMGは「守り抜く信頼」。
どちらの信頼の形が自分の価値観に合うかが、ファーム選びの重要な分岐点になります。
どちらを選ぶべきか:自分の志向と強みで見極める最適解
EYとKPMG、どちらも一流のファームであり、明確な強みを持っています。最終的な選択は、「自分がどんなコンサルタントになりたいか」というキャリアビジョンによって決まります。
EYが向いている人
EYは挑戦を恐れず、変化の最前線で価値を生み出したい人に最適です。デジタル戦略、AI、M&A、サステナビリティなど、次世代ビジネスに関わるチャンスが多く、スピード感と成長志向を持つ人に強くフィットします。
特に若手でも裁量が与えられるため、自ら考え行動する力を磨きたい人にとって理想的な環境です。
KPMGが向いている人
KPMGは誠実さ、継続力、専門性を重んじる人に適しています。金融・公共・リスク領域の案件が多く、専門知識を深めながら確実に信頼を積み上げたい人に向いています。
チームワークと倫理を重視する文化の中で、長期的なキャリアを築く安定した環境が整っています。
キャリア志向別の比較
| 志向タイプ | 適性ファーム | 理由 |
|---|---|---|
| スピード重視・挑戦志向 | EY | 若手の成長環境とグローバル案件の豊富さ |
| 専門性重視・安定志向 | KPMG | リスク・ガバナンス分野での圧倒的信頼 |
| グローバルキャリア志向 | EY | 海外転勤・越境プロジェクトの機会が多い |
| 公共・社会貢献志向 | KPMG | 官公庁・ESG案件に強く社会的影響度が高い |
総合的な結論
どちらが優れているかではなく、「どちらが自分を最も成長させるか」が本質です。
EYは「変革をリードする挑戦者」、KPMGは「信頼を積み上げる職人」。
どちらも正解であり、違いは方向性です。
コンサルタントとして成功するために重要なのは、企業のブランドではなく、自分の信念と価値観に合った場所で力を発揮できるかどうか。
あなたの志向に合ったファームを選ぶことが、プロフェッショナルとしての第一歩を確かなものにします。
