いま、コンサルティング業界で最も勢いのある領域が「サステナビリティ」です。
脱炭素社会の実現、ESG投資の拡大、欧州発のCSRDやCSDDDといった新しい国際規制。これらの動きが企業経営を根本から変え、日本でも「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」という新たな企業変革の波を生み出しています。
この流れの中で、サステナビリティを専門とするコンサルタントが急速に求められています。
従来のCSRや環境報告支援にとどまらず、企業の経営戦略、事業モデル、サプライチェーン、さらには財務開示までを含めた全社的な変革を導く存在。それがサステナビリティコンサルタントです。
マッキンゼー、BCG、ベインなどの戦略ファーム、PwCやデロイトをはじめとするBIG4、そして野村総研やアビームなどの国内大手までもが、この分野に注力しています。市場規模は年率16〜26%という驚異的なスピードで拡大中であり、まさに「第二のDX」とも呼べる成長領域です。
本記事では、サステナビリティコンサルティング市場の実態、主要ファームの特徴、必要なスキルセット、キャリア戦略を、豊富なデータと事例をもとに解説します。
「社会に価値を生み出しながら、ビジネスの最前線で活躍したい」——そんなあなたにとって、サステナビリティコンサルタントは最も挑戦的で意義あるキャリアとなるでしょう。
サステナビリティコンサルティングとは何か:急成長する市場の本質

サステナビリティコンサルティングとは、企業が環境・社会・ガバナンス(ESG)やSDGsの観点から持続可能な経営へと移行するための戦略立案と実行支援を行う専門サービスのことです。かつてはCSR報告書作成などの「社会的責任活動支援」が中心でしたが、現在では事業戦略そのものを再設計する「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」の支援へと進化しています。
グローバル市場の拡大速度は目を見張るものがあります。Mordor Intelligenceの調査によると、世界のサステナビリティコンサルティング市場は2024年の約134億ドルから2029年には433億ドル規模に達すると予測され、年平均成長率(CAGR)は26.38%に上ります。日本国内でもIDC Japanの予測によれば、同市場は2025年に2,735億円、2029年には4,962億円規模まで拡大し、成長率は16.0%と報告されています。
この驚異的な成長の背景には、従来のコンサルティングとは異なる市場構造があります。多くのコンサルティング需要は景気に左右される「裁量的支出」に依存してきましたが、サステナビリティ対応は規制遵守や資金調達要件に基づく「非裁量的支出」として、企業にとって避けられないテーマになっています。
企業がサステナビリティに取り組む理由は、環境意識の高まりだけではありません。欧州連合(EU)によるCSRD(企業サステナビリティ報告指令)やCSDDD(企業持続可能性デューディリジェンス指令)、日本における金融庁・SSBJの開示基準整備など、法制度が急速に整備されつつあります。こうした国際規制や投資家からのESG要請が、市場拡大を牽引しているのです。
以下の表は、主要な市場成長データをまとめたものです。
| 地域 | 予測市場規模(2029年) | 年平均成長率(CAGR) |
|---|---|---|
| 世界全体 | 約433億ドル | 26.38% |
| 日本国内 | 約4,962億円 | 16.0% |
サステナビリティコンサルティングは、単なるトレンドではなく、企業経営の中核的テーマに進化しているのです。
その本質は「社会課題の解決」と「企業の長期的価値創造」を両立させることにあります。これこそが、次世代のコンサルタントにとって最も重要な挑戦領域と言えるでしょう。
CSRからSXへ:企業変革の新たな潮流
かつての企業の社会的責任(CSR)は、環境保護や社会貢献を中心とした「周辺的な活動」でした。ところが、近年はこの考え方が根本的に変わり、サステナビリティを企業経営の中核に統合する動きが世界的に進んでいます。これが「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」という新たな潮流です。
SXは、DX(デジタルトランスフォーメーション)と同様に、単なる仕組みや技術導入ではなく、企業のビジネスモデル・組織・人材・サプライチェーンを根本的に再設計する全社的な変革を指します。この概念の登場により、サステナビリティは「守りの施策」から「攻めの経営戦略」へと変化しました。
特に注目すべきは、SXがもたらす企業価値向上の可能性です。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の分析では、SXを推進する企業はROE(自己資本利益率)が平均で約6%高く、ブランド価値や従業員エンゲージメントの向上にも寄与することが示されています。
SXを推進するうえで重要な要素は以下の3つです。
- 経営戦略への統合(経営トップの関与)
- サプライチェーンの再設計(Scope3対応)
- テクノロジー活用(データ分析・GHG算定・AI予測など)
また、国内では野村総合研究所(NRI)やKPMG、PwCなどの大手ファームが「SXユニット」や「サステナビリティ変革室」を設立し、企業変革支援を本格化させています。
企業が求めるコンサルティングの内容も大きく変化しています。
以前は「CSR報告書の作成支援」が主流でしたが、現在では「どのように自社のビジネスを社会課題と両立させるか」「環境制約下で持続的に成長するか」といった本質的な課題解決が中心となっています。
SXは、企業が“社会的責任を果たす”段階から、“社会を通じて成長する”段階へと進化した象徴です。
この変化をリードすることこそ、コンサルタントが果たすべき新たな使命なのです。
なぜ今コンサルティング業界がサステナビリティに熱狂しているのか

コンサルティング業界がここ数年で最も注力している分野、それがサステナビリティです。背景には、企業が避けて通れない社会的・経済的変化があります。気候変動対策、ESG投資の拡大、国際的な開示規制の強化などが、企業経営の根幹を揺るがしているのです。
このテーマは一過性のトレンドではなく、「企業の生存条件」になっています。
マッキンゼーやBCGなどの戦略ファームが環境戦略チームを設置し、PwCやKPMGなどの総合系ファームが専任のSXチームを新設するなど、業界全体が大規模な体制変革を進めています。
とくに注目すべきは、コンサルティング需要の「非裁量化」です。従来の新規事業やM&A支援は景気に左右されましたが、サステナビリティ関連プロジェクトは法規制や投資家対応など「やらなければならない案件」として、安定的な需要を生み出しています。
また、ESGスコア向上による投資効果が可視化されたことも大きいです。科学的根拠に基づく削減目標(SBT)の設定や情報開示の高度化により、企業は株価の安定・資金調達コストの低下といった明確な経済的リターンを得られるようになりました。
さらに、ESGやSX領域は人材需要の急増を生んでいます。金融、法律、デジタル、製造など多様なバックグラウンドを持つ専門家が求められ、未経験者向けの研修プログラムも整備されています。アクセンチュアやデロイトでは、脱炭素化やサーキュラーエコノミーの実務経験を高く評価しつつも、強い学習意欲と分析力を持つ人材を積極採用しています。
つまり、サステナビリティは「社会課題×ビジネス」という新たな成長方程式を作り出し、コンサルティング業界に第二のDXブームをもたらしているのです。
今やこの領域に関わらないコンサルティングファームは、競争の最前線から取り残される危険すらあります。
主要ファームの戦略と違い:MBB・BIG4・日系ファームを徹底比較
サステナビリティコンサルティングの世界では、各ファームが明確に異なるポジションを築いています。求職者やキャリアチェンジを目指す人にとって、その違いを理解することは非常に重要です。
| 類型 | 主要ファーム | コアメッセージ | 主なプロジェクト領域 | 強み | |
|---|---|---|---|---|---|
| 戦略系 | マッキンゼー、BCG、ベイン(MBB) | “Set the Vision” | 経営戦略、事業ポートフォリオ、C-suite変革 | CEO層との接点、分析力、ブランド力 | |
| 総合系 | PwC、Deloitte、KPMG、EY、アクセンチュア | “Deliver the Transformation” | 実行支援、データ基盤、業務改革、保証・開示支援 | グローバルネットワーク、実装力 | |
| 日系 | 野村総研(NRI)、アビーム | “Integrate with the Business” | システム統合、産業政策提言、国内実装支援 | 産業知識、官公庁連携、長期関係 | |
| ブティック系 | DI、IGPI | “Create/Fix the Business” | 新規事業創造、事業再生、M&A | 実行コミット、専門性、スピード感 |
MBBは経営の根幹をデザインする戦略家としての立場にあります。サステナビリティを経営戦略そのものと位置づけ、クライアント企業の「将来のあるべき姿(Vision)」を定義します。脱炭素ポートフォリオ設計や社会インパクト評価など、トップマネジメント層を対象にした支援が中心です。
一方、BIG4を中心とする総合系ファームは「変革を実行する現場指揮官」です。SXの戦略を具体的なプロセスやシステムに落とし込み、データ分析基盤の構築、GHG算定、開示レポートの保証など、実行面に強みを持っています。
そして、NRIやアビームなどの国内系ファームは、産業構造と政策を深く理解した実装型パートナーです。特に官公庁や地方自治体との連携プロジェクトが多く、国内市場特有の制度対応や社会実装に強みを発揮します。
最後に、ドリームインキュベータやIGPIなどのブティック系は「事業を創る」タイプです。新規事業立ち上げやM&A支援など、企業の持続的成長を支えるリアルな実行力で存在感を示しています。
結論として、どのファームもサステナビリティを中心に再構築を進めており、求められる人材像も変わりつつあります。
あなたがどのステージで価値を発揮したいのか——戦略立案か、実行支援か、社会実装か。それを見極めることが、コンサルタントとしてのキャリア成功の第一歩なのです。
求められるスキルセットとキャリア構築のロードマップ

サステナビリティコンサルタントは、従来のコンサルティングスキルに加え、環境・社会・ガバナンスに関する深い知識を持つ“ハイブリッド型の専門職”です。論理的思考力や課題解決力は前提として、近年では新しいスキルの習得が必須となっています。
サステナビリティコンサルタントに求められる主要スキル
| スキル領域 | 必要な知識・能力 | 具体的内容 |
|---|---|---|
| 基礎スキル | 論理的思考、課題解決、プレゼン力 | コンサルタントとしての基盤スキル |
| 環境・気候分野 | 気候科学、脱炭素、ライフサイクル評価 | SBT、TCFDなどの理解 |
| 規制・法制度 | CSRD、SSBJ、TNFDの対応知識 | 開示義務・法令遵守支援 |
| ファイナンス | ESG投資、サステナブルファイナンス | 投資家対応、インパクト評価 |
| デジタルリテラシー | データ分析、システム導入 | GHG算定やAI活用 |
| グローバル対応 | ビジネス英語力、異文化理解 | 国際チームとの協働 |
特に重要なのは「サステナビリティ×データ×経営戦略」をつなぐ力です。
企業はもはやCSR報告書作成ではなく、経営・財務に統合されたサステナビリティ経営を志向しています。そのため、エネルギー効率や脱炭素戦略を事業計画に組み込み、データで成果を証明できる人材が高く評価されています。
キャリア構築のステップ
キャリアパスは多様化しており、必ずしも理系やコンサル経験者である必要はありません。
- 初級(ポテンシャル層):大学で環境・経済・国際関係などを学び、関連知識と熱意を持つことが重要です。
- 中級(実務層):企業のサステナビリティ推進部門やIR担当、環境管理職などの経験が評価されます。
- 上級(専門層):規制・投資・技術に精通し、全社戦略をデザインできる存在が求められます。
KPMGやPwCなどでは、未経験者向けの専門採用プログラムを展開しており、入社後の研修を通じて実務スキルを体系的に学ぶことが可能です。
サステナビリティコンサルタントは「知識×情熱×実行力」で評価される職種です。
変化の速いこの領域では、資格よりも継続的な学習意欲と、自らの専門性を社会課題解決に結びつける姿勢がキャリア成長の鍵となります。
新たなフロンティア「ネイチャーポジティブ」時代の到来
サステナビリティコンサルティングの次なる成長領域として、急速に注目を集めているのが「ネイチャーポジティブ(Nature Positive)」です。これは単に環境破壊を抑えるのではなく、自然資本を回復させ、経済成長と生態系再生を両立する新しいアプローチを意味します。
ネイチャーポジティブが生む巨大市場
世界経済フォーラム(WEF)の推計によると、ネイチャーポジティブ経済への移行によって10.1兆ドル(約1,500兆円)規模の新市場が生まれるとされています。日本国内でも、関連市場は最大104兆円に達する見込みです。
この波の中心にあるのが、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)です。TCFDが気候変動リスクを可視化したのに対し、TNFDは生物多様性リスクを財務開示に組み込む仕組みを整えています。これにより、企業は自社の事業活動が自然資本に与える影響を定量化し、投資家へ開示することが求められるようになります。
インパクト会計と新たな価値創造
ネイチャーポジティブの実現には、「インパクト会計(Impact-Weighted Accounting)」の考え方も不可欠です。これは企業が社会・環境に与えるプラス・マイナスの影響を金額換算して財務情報と統合する手法であり、企業の「真の価値」を測る新しい指標として注目されています。
PwCやEYは既にこの領域でアドバイザリーサービスを本格化しており、インパクトの可視化と経営判断の高度化を支援しています。これにより、企業は「環境に良いことをする」から「環境を価値に変える」段階へと進化しているのです。
コンサルタントに求められる役割
ネイチャーポジティブ時代のコンサルタントには、次の3つの力が求められます。
- 科学的知見を持つ分析力(LCAや生態系評価など)
- 経営戦略に落とし込む構想力(サプライチェーン変革・再生モデル設計)
- 実行を伴う推進力(官民連携・ステークホルダー調整)
今後10年、サステナビリティコンサルティングの主戦場は「気候」から「自然」へ移ると予測されています。
ネイチャーポジティブは、地球環境を再生しながら企業成長を実現する次世代のビジネスモデルであり、この領域に挑むことこそが、未来を創るコンサルタントの使命なのです。
未来を創るコンサルタントへ:成長分野で自分の武器を磨く方法
サステナビリティコンサルティングは、今や“次世代の経営変革を担う職業”として注目を集めています。環境・社会・ガバナンス(ESG)の潮流が世界中で加速するなか、企業は単なる環境対応ではなく、ビジネスと社会価値を両立する戦略設計を求めています。
この分野で活躍するためには、論理的思考力や課題解決力といった基本スキルに加え、自らの専門領域を深める「T字型スキル構築」が欠かせません。
「T字型人材」が成功する理由
各ファームの採用傾向を見ると、KPMGは金融や法務出身者、EYはCSR・PM経験者、アクセンチュアは未経験でも熱意と学習力を重視し、MBBは脱炭素や商社経験者を積極採用するなど、多様な経歴を歓迎する一方で、専門分野の深さを重視する傾向があります。
「Tの横棒」は、コミュニケーション力・チームマネジメント・ロジカルシンキングといった汎用的スキルです。どの領域にも通用する基礎力であり、コンサルタントとしての信頼を築く土台となります。
一方「Tの縦棒」は、カーボンアカウンティング、人権デューデリジェンス、サーキュラーエコノミー設計、ESGデータ統合といった専門知識の深掘りです。特に、脱炭素やサプライチェーン人権対応など、今後の規制強化が予測される分野は高い市場価値を持ちます。
成長を加速させる3つの実践ステップ
- ファーム横断的な知見を吸収する
業界の最新動向や政策、学術的研究などを常にアップデートしましょう。IEA(国際エネルギー機関)やIPCC報告書などの一次情報を読むことで、分析の精度が格段に上がります。 - 実践型プロジェクトを経験する
企業の脱炭素戦略策定やESG報告書支援など、現場に近い案件での経験は成長を加速させます。特に中堅コンサルファームやNPOとの協働プロジェクトは実践力を磨く好機です。 - 自分の「専門テーマ」を打ち出す
「環境×金融」「人権×テクノロジー」など、複合領域で専門性を確立することが重要です。独自視点を持つ人材は、ファーム内外でリーダー候補として抜擢されやすくなります。
キャリアの未来と自己投資の方向性
サステナビリティ領域は、AIやデジタルの発展と結びつくことでさらに広がりを見せています。例えば、脱炭素×データサイエンスの専門家や、ESG×生成AIを扱う分析系コンサルタントなど、新しい職種が次々に生まれています。
また、MBAやESG関連の修士課程(例:University of Cambridge、東京大学公共政策大学院など)で学び直す動きも加速しています。知識と実践の往復が、サステナビリティ分野で長く活躍する鍵になるのです。
未来を創るコンサルタントとは、「変化を恐れず学び続ける人」です。
この成長市場で自らの武器を磨き、社会を変えるプロフェッショナルとしての道を切り開いていきましょう。
