「コンサルタントになりたい」と思ったとき、多くの人は論理的思考力やプレゼン力を磨こうと考えます。ですが、本当に優れたコンサルタントとは、単なる分析屋ではなく、「未来を創る知的プロデューサー」です。
その象徴的存在が、野村総合研究所(NRI)です。NRIは「未来創発(Dream up the future.)」という理念を掲げ、戦略立案から社会実装までを一貫して担う、日本唯一のシンクタンク×コンサルティング企業です。彼らは、社会の課題を予測するだけでなく、自ら課題を定義し、新しい市場や価値を創造してきました。
たとえば、日本航空(JAL)との「どこかにマイル」や、ITロードマップによる技術動向の先読みなど、NRIの仕事は社会全体を動かす力を持っています。
この記事では、NRI流のリサーチ・分析手法をもとに、これからコンサルタントを目指すあなたが学ぶべき「考え方」と「実践スキル」を体系的に解説します。現場で真実を掴む力、課題を構造化する力、そして人を動かす力。これらを総合的に鍛えることで、あなたも「未来を創る側」に立つことができるのです。
未来を創る力とは何か:NRIが体現する「未来創発」の哲学

日本を代表する総合シンクタンク、野村総合研究所(NRI)は、「未来創発(Dream up the future.)」という企業理念を掲げています。これは単なるスローガンではなく、社会の変化を予測するだけでなく、自ら未来を創り出す主体になるという明確な意思を示しています。
この理念の根幹にあるのは、「創発」というキーワードです。NRIは、未来を待つのではなく、自らの知的生産を通じて社会のあり方を形づくることを使命としています。具体的には、持続可能な社会、安全安心な社会、そして活力ある社会の実現を目指しており、その活動は企業の利益追求を超えた社会的使命に支えられています。
この考え方は、コンサルタント志望者にとって非常に重要な指針です。なぜなら、クライアントの課題解決だけでなく、社会全体の課題を見据えて提案を行う姿勢が、長期的な信頼と成果を生み出すからです。「課題を解く人」ではなく、「未来を描く人」こそが、真のコンサルタントです。
NRIは、未来社会における新しいパラダイムを提唱し、そのテーマ(例:デジタル社会資本、サステナビリティ)を軸に事業機会を創出しています。つまり、社会が次に直面する課題を自ら設定し、そこに解決策を提供することで、新たな市場そのものを生み出しているのです。
この一連の仕組みは、企業活動でありながら社会運動でもあります。NRIが発信する未来洞察は、官公庁や産業界の議論を活性化させ、社会全体のアジェンダを形成する役割を果たしています。そしてその議論が、最終的に自社のコンサルティングやITソリューション事業へとつながる構造を生み出しています。
また、「未来創発」は、個人のキャリア観にも通じます。コンサルタントとして成果を出すためには、短期的な課題対応に終始せず、「自分の提案が社会にどんな変化をもたらすのか」を常に考える必要があります。NRIが示す未来志向の姿勢は、どんなキャリアにも応用できる普遍的な思考法なのです。
未来は予測するものではなく、創るもの。
この一文こそ、NRIが半世紀にわたって培ってきた知的基盤の核心であり、これからのコンサルタントが持つべき最大のマインドセットなのです。
戦略と実行をつなぐ「ナビゲーション×ソリューション」モデルの真髄
NRIの最大の特徴は、「ナビゲーション×ソリューション」という独自のビジネスモデルにあります。これは、戦略立案(ナビゲーション)と実行支援(ソリューション)を一体化した仕組みであり、他のコンサルティングファームと一線を画しています。
ナビゲーションとは、社会や企業が直面する本質的な課題を分析し、解決への道筋を描く知的活動です。一方でソリューションは、その戦略を実際のシステム設計や業務改革として実装する実行フェーズを指します。多くの戦略ファームが提言までで終わる中、NRIは「戦略の実現」までを責任を持って担います。
このモデルが生み出す強みは、「実現可能な戦略」を構築できる点にあります。理想的な戦略も、現場で実行できなければ価値はありません。NRIは現場主義を徹底し、戦略と現実をつなぐリアリティのある提案を生み出しています。
代表的な事例として、日本航空(JAL)の「どこかにマイル」プロジェクトが挙げられます。NRIは、JALの未使用マイルという経営課題に対し、「行き先が選べない旅行」という新しい顧客体験を設計しました。ナビゲーションで課題を定義し、ソリューションでその構想をシステムとして社会に実装したのです。結果、JALは顧客満足度の向上と収益機会の拡大を同時に実現しました。
NRIのプロジェクトは、このように「構想→設計→実装→改善」という循環型の知的プロセスを持っています。戦略が実装されることで生まれるデータや知見が次の戦略策定にフィードバックされ、持続的な価値創造が可能になります。
以下は、主なビジネスモデルの比較です。
| ファーム名 | 特徴 | 提供範囲 | 
|---|---|---|
| NRI | 戦略とIT実装を完全統合 | 構想から運用まで一貫支援 | 
| マッキンゼー/BCG | 戦略提言が中心 | 実行支援は限定的 | 
| アクセンチュア | IT実装中心 | 戦略提言は部分的 | 
| 三菱総研/大和総研 | シンクタンク機能重視 | 政策・調査が中心 | 
このように、NRIの「ナビゲーション×ソリューション」モデルは、単なる業務プロセスではなく、戦略と実行を融合させる知的エコシステムなのです。
そして、コンサルタント志望者にとって最も重要なのは、この発想を自分の思考に取り入れることです。戦略を描くときには常に「どう実行するか」を、実装を考えるときには「どんな戦略的意図を持つか」を意識する。これが、NRI流の本質であり、未来を動かすコンサルタントの思考法です。
現場で真実を掴む「現地現物」思考:実行可能な戦略の条件

NRIのリサーチとコンサルティングの根底には、「現地現物」という徹底した現場主義の哲学があります。これは単なる精神論ではなく、机上の理論ではなく現場で真実を掴むことこそが、実行可能な戦略を生み出す唯一の方法だという合理的な信念に基づいています。
この「現地現物」の考え方は、製造業の改善思想で知られるトヨタ生産方式に通じるものがあります。NRIのコンサルタントたちは、クライアント企業のオフィスや工場、店舗などに直接足を運び、従業員や顧客との対話を通じて「現場の声」を丹念に拾い上げます。実際、NRIの若手コンサルタントが「現場で泥臭く汗をかくことこそが本物のインサイトを生む」と語るほど、現場観察は重要なプロセスなのです。
このアプローチが強力なのは、戦略と実行を一貫して担うNRIのビジネスモデルにおけるリスク管理の要だからです。戦略立案と実装の両方を担う以上、机上の空論では失敗が許されません。戦略が現場の文化やオペレーションから乖離していれば、どんなに優れた提案でも実行段階で崩壊してしまいます。
現地現物のプロセスでは、次の3つの観点が特に重視されます。
- 現場で「事実」と「真実」を分けて考える
 - 定量データだけでなく、人間の感情や行動の背景を観察する
 - 提案内容を現場の制約条件に照らして再設計する
 
これにより、戦略提案はより現実的で、クライアント組織が自走できる内容に磨かれていきます。
NRIが「現地現物」を実践してきた背景には、シンクタンク出身企業としてのDNAがあります。リサーチによる課題発見を重視する姿勢が、現場に深く入り込む文化を生み出しました。この哲学が「ナビゲーション×ソリューション」モデルの実効性を支え、長期的な顧客信頼を築く基盤となっているのです。
コンサルタント志望者にとって、この思考法は極めて実践的な教訓です。クライアントの課題をExcelやPowerPoint上で完結させるのではなく、現場に足を運び、自らの目で確かめる姿勢こそが本物の提案を生みます。真のコンサルタントは、現場から逃げない。現場にこそ答えがある。それがNRI流の核心です。
データを超えて洞察を得る:NRIのリサーチ・分析プラットフォーム活用術
NRIのリサーチは、現場の定性情報に加えて、膨大な定量データと最先端の分析ツールを組み合わせることで真価を発揮します。これは単なるデータ分析ではなく、「データから洞察(インサイト)を生み出す知的生産のプロセス」として体系化されています。
NRIでは、プロジェクトの初期段階から「App Ape」などの外部アプリ分析ツールを活用して、消費者行動や市場トレンドをリアルタイムで把握します。また、自社サービスである「TrueNavi」を用いて大規模アンケート調査を実施し、数万人単位の生活者データを収集します。さらに、コールセンターの通話ログを解析する「TRUE TELLER」では、顧客の“声”をテキストマイニング技術で構造化し、課題の本質を可視化します。
| 分析ツール | 主な機能 | 活用目的 | 
|---|---|---|
| App Ape | アプリ利用データ分析 | 消費者行動の可視化 | 
| TrueNavi | インターネットリサーチ | 定量的仮説検証 | 
| TRUE TELLER | テキストマイニング | 顧客の声の分析 | 
| UniDox | データ統合・可視化 | 経営判断の迅速化 | 
特筆すべきは、NRIがこれらのツールを「使う側」だけでなく、「開発・提供する側」でもある点です。たとえば、経営DXを支援する「UniDox」は、DomoなどのBIプラットフォームをベースに、企業内データを統合・可視化するソリューションとして自社開発されました。分析の知見を汎用的なソリューションとして再構築し、社会に還元するという知的循環モデルが確立されているのです。
NRIのコンサルタントは、これらのデータ基盤を駆使しながらも、最終的な判断を「現地現物」の感覚と統合します。つまり、データで見える世界と、現場で感じるリアルを融合させるのです。この両輪がそろって初めて、クライアントにとって実効性のある戦略が生まれます。
また、NRIのデータ分析は単発の案件にとどまらず、複数のプロジェクトで共通する課題を抽出し、再利用可能な知的資産として体系化します。これにより、一社ごとの知見が社会全体の進化へと転化する構造が形成されています。
コンサルタント志望者が学ぶべきは、データ分析のテクニックそのものではありません。重要なのは、「数字の奥にある人間の行動・意識を読み解く力」です。データは事実を示しますが、真実を語るのは人間です。NRIが教えてくれるのは、テクノロジーを超えて“意味”を見抜く洞察力の重要性なのです。
仮説思考と構造化の技術:課題を「設計」できる人材になる方法

NRIのコンサルティングスタイルを象徴するキーワードの一つが「仮説思考」です。これは、データを集めてから考えるのではなく、最初に仮説を立て、その検証を通じて思考を深めていくアプローチを指します。仮説思考は、問題解決のスピードと精度を高めるための中核的スキルであり、NRIのリサーチやプロジェクト設計のすべてに組み込まれています。
仮説思考の目的は「効率的に本質へたどり着くこと」です。問題の全貌をすべて把握しようとすると、情報収集の段階で時間がかかりすぎ、解決策にたどり着く前に機会を逃すことがあります。そこで、NRIでは最初に「この課題の本質は何か?」を定義し、仮説を構築した上でリサーチ設計を行います。
仮説思考を支えるもう一つの要素が「構造化」です。NRIのコンサルタントは、複雑な事象を論理的に整理し、要素ごとの因果関係を可視化します。その代表的な手法が「ロジックツリー」や「MECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)」です。これにより、抜け漏れなく、重複なく、課題を整理することが可能になります。
| 思考技法 | 概要 | 活用シーン | 
|---|---|---|
| 仮説思考 | 最初に仮説を立てて検証を重ねる | 戦略立案・調査設計 | 
| ロジックツリー | 因果関係をツリー構造で整理 | 問題の分解・原因分析 | 
| MECE | 重複や抜け漏れを防ぐ分類法 | 構造化・分析設計 | 
仮説思考は単なる思考法ではなく、クライアントの信頼を得るための「知的リーダーシップ」の表現でもあります。プロジェクトの初期段階で、クライアントに対して仮説を提示し、議論をリードすることで、「この人は本質を見ている」と感じさせることができます。
さらに、NRIでは「仮説思考×データ思考」の融合が重視されています。仮説を立て、データで検証し、再び仮説を磨き上げる。このサイクルを高速に回すことで、質の高い戦略提案が生まれるのです。特にAIやデジタル分析が進む今、「データが示す事実」と「仮説が導く意味」を統合できる人材が求められています。
コンサルタント志望者にとって重要なのは、仮説思考を「思いつき」と混同しないことです。仮説は直感ではなく、過去のデータや知見、理論的背景に基づいた予測でなければなりません。論理と構造に裏付けられた仮説こそが、信頼される戦略の土台になります。課題を分析する人から、課題を設計する人へ。これが、NRIが教えるプロフェッショナルの成長軌跡なのです。
合意形成の技術と信頼構築:戦略を「実行」に変えるコミュニケーション術
どんなに優れた戦略も、関係者が動かなければ実行されません。NRIが特に重視するのが、「合意形成の技術」と「信頼構築力」です。これは、クライアントの社内外に存在する多様な利害関係者を巻き込み、戦略を現実に変えるための実践的スキルです。
NRIのコンサルタントが語る成功要因の多くは、分析力よりも「人を動かす力」にあります。特に、複数部署・複数企業が関わる大規模プロジェクトでは、合意形成のスピードと質がプロジェクトの成否を左右します。経営層・現場・ベンダーなど、立場の異なるプレイヤーをまとめ上げるには、「相手の立場を理解し、共通の目的を再定義する力」が欠かせません。
このプロセスにおいて、NRIが活用しているのが「ファシリテーション×ロジカルコミュニケーション」の技術です。感情論ではなく、論点整理とデータ分析を基に議論をリードすることで、利害の対立を整理し、前向きな合意を形成します。
| スキル | 内容 | 目的 | 
|---|---|---|
| ファシリテーション | 会議の目的と論点を明確化 | 意見の対立を建設的に整理 | 
| ストーリーテリング | 戦略の意義をわかりやすく伝える | 共感を生む | 
| ロジカルコミュニケーション | 論点と根拠を明示 | 説得力を高める | 
NRIでは、社内外のステークホルダーを巻き込むために「ナラティブ・アプローチ」も活用しています。これは、単に提案を説明するのではなく、「なぜ今その変革が必要なのか」を物語として伝える方法です。人はデータではなく、ストーリーによって動かされる。だからこそ、戦略を「語れる力」こそが実行力の本質とされています。
また、信頼構築には誠実さが欠かせません。NRIの多くのプロジェクトでは、クライアントとの関係が10年以上続くケースも珍しくありません。これは、短期的な成果よりも、クライアントの組織文化や人間関係を深く理解し、「伴走者」として価値を提供しているからです。
コンサルタント志望者にとって、この姿勢は非常に重要です。提案を通じてクライアントを動かすためには、相手の課題を自分ごととして捉え、共に考え、共に成功をつかむ覚悟が求められます。信頼は分析ではなく、人間力から生まれる。この真理を理解したとき、あなたの戦略は初めて「実行」へと動き出すのです。
未来を創るコンサルタントへ:NRI流キャリアの磨き方とマインドセット
NRI(野村総合研究所)は、「未来を能動的に創造する」ことを掲げる唯一無二のシンクタンク型コンサルティング企業です。ここで求められるのは、単なる分析力ではなく、未来を構想し、社会を変革する意志と行動力です。これからコンサルタントを目指す人にとって、NRI流のキャリア形成とマインドセットは極めて示唆に富んでいます。
「T字型」人材としての成長を目指す
NRIでは、専門性と汎用性の両立が強く求められます。いわゆる「T字型」人材とは、
- 一つの分野で深い専門性(Tの縦棒)を持ち、
 - ビジネス・テクノロジー・社会課題への広い理解(Tの横棒)を備える人材
を意味します。 
この考え方に基づき、NRIのコンサルタントはデータサイエンスや経済学、情報工学など多様なバックグラウンドを持ちながら、学際的なチームを組成します。一人ひとりの専門知を「つなぐ力」こそが、複雑な社会課題に対するNRIの最大の強みとなっているのです。
「End-to-End」で考える思考習慣
NRIが育てるコンサルタントの特徴は、戦略構築で終わらず「実行」までを見据える思考にあります。戦略を描く際には常に、
- 実現のための組織変革
 - システムや業務プロセス設計
 - 人材育成やガバナンス体制
までを一気通貫で考え抜きます。 
この「End-to-End思考」は、NRIの象徴ともいえる「ナビゲーション×ソリューション」モデルを支える基盤です。戦略提言で止まらず、クライアントと共に変革を「実装」する姿勢が、他ファームとの差別化を生み出しています。
継続学習とセルフリーダーシップ
NRIの採用チームが強調するのは、「知的好奇心」と「自走力」です。未知の課題に挑むには、常に学び続ける姿勢が欠かせません。社内では業務外でも積極的に社内勉強会や新規事業アイデアピッチに参加する文化があり、学びがキャリアの“呼吸”のように根付いているのです。
また、キャリアパスにおいても上下関係より「テーマリーダーシップ」が重視されます。若手でも専門性を武器にチームをリードし、プロジェクトの知的方向性を決定づけることが期待されます。年次ではなく、能力と意志で成長の速度が決まる環境がここにはあります。
社会価値を創る「未来志向」の哲学
NRIのビジョンの根底には、「未来創発(Future Creation)」という哲学があります。これは、社会の変化を待つのではなく、自らが社会の未来を設計する主体となるという考え方です。環境エネルギー、デジタルガバメント、金融インフラなど、NRIの多くのプロジェクトはこの理念を体現しています。
コンサルタントとしての成功とは、個人の成果だけでなく「社会を動かす知的貢献」を果たすことに他なりません。だからこそ、NRIでは「ビジネスと公共を橋渡しする知のプラットフォーム」という立場を明確にしています。
成長を続けるための実践ステップ
- 深い専門性を持つ領域を一つ決める
 - 横断的な知識(技術・経済・政策)を広げる
 - 戦略立案から実行までを意識した課題設計を行う
 - 現場に出て一次情報を集める「現地現物」を習慣化する
 - 常に「社会にどんな変化を起こせるか」を自問する
 
これらを地道に積み上げていくことが、NRI流キャリアを築くための最短ルートです。
未来志向のコンサルタントに必要なのは、知識よりも姿勢です。答えを待つのではなく、問いを立て、自ら未来を創る人間になること。それが、NRIが示す次世代コンサルタント像なのです。
