コンサルタントとしてキャリアを築きたい人にとって、「リーダーシップをどう育むか」は避けて通れないテーマです。近年、多くの企業が研修制度を整備していますが、その中でも圧倒的な注目を集めているのがEY(アーンスト・アンド・ヤング)のリーダーシップ育成プログラムです。

EYは「Building a better working world(より良い社会の構築)」という明確なパーパスを掲げ、単なるスキル教育を超えて、社会的インパクトを生み出すリーダーの育成を目指しています。この哲学を体現するのが「変革的リーダーシップ(Transformative Leadership)」という概念であり、これは従来のマネジメントとは一線を画す、人間中心のアプローチです。

また、EYは世界的に注目される教育プログラムを数多く展開しています。デジタル認証制度「EY Badges」や、ハルト・インターナショナル・ビジネススクールと提携した「EY Tech MBA by Hult」など、学びとキャリアの両立を可能にする仕組みが整っています。さらに、日本のEYでは現役コンサルタントが講師を務める実践的な研修や、個人の成長を支援する「カウンセラー制度」などが導入され、理論と現場が融合した育成モデルを実現しています。

この記事では、EYのリーダーシップ哲学と育成プログラムを徹底的に解剖し、コンサルタントを志す人がどのように変革力とキャリア戦略を身につけていくべきかを具体的に解説します。データや現場の声を交えながら、EY流のリーダー育成の本質に迫ります。

EYの哲学に学ぶ「変革的リーダーシップ」とは

EY(アーンスト・アンド・ヤング)のリーダーシップ育成の根底には、「Building a better working world(より良い社会の構築)」というパーパスが明確に存在します。これは単なる企業スローガンではなく、全社員の行動指針であり、意思決定の羅針盤となっています。特にコンサルタント志望者にとって、この考え方は仕事の本質を理解する上で欠かせない視点です。

この哲学を体現する概念が「変革的リーダーシップ(Transformative Leadership)」です。従来のトップダウン型リーダーシップが「指示と管理」を中心とするのに対し、変革的リーダーシップは「共感」「目的意識」「人間理解」を軸としたアプローチを取ります。EYはこの思想を独自のモデルとして体系化し、個人・組織・社会の3つのレベルでの成長を促しています。

構成要素意味具体的な行動例
Better Me自己の成長自己理解、倫理的行動、継続的学習
Better Usチームの協働信頼関係構築、相互支援、心理的安全性の醸成
Better Working World社会貢献社会課題解決、持続可能な価値創出

このモデルでは、個人の変化がチームを強化し、最終的に社会全体の変革へとつながるという連鎖を明確に示しています。

さらにEYは、現代のリーダーに求められる6つの資質を定義しています。これらはパンデミック以降の「NAVI(Nonlinear, Accelerated, Volatile, Interconnected)」な世界において、チームを率いるために不可欠な要素です。

  • パーパスを受け入れ、増幅させる
  • ありのままの自分でいる
  • 信頼の環境を育む
  • 現実的な希望を示す
  • 共感する
  • 負担を軽くする

特に「共感力」と「誠実さ」は、EYが最も重視するリーダーシップの本質です。これらは知識やスキルを超え、信頼を生む土台となります。

また、スイスの「NextWave Transformative Leadership」プログラムでは、好奇心やチーミング、ウェルビーイングなど6つの行動特性を育む実践トレーニングが行われています。学術的な理論を現場の実践に落とし込む点がEYの強みであり、この体系的な育成手法がグローバル全体で共有されています。

変革的リーダーシップとは、自分を変え、チームを変え、社会を変える力。EYはこの思想を「企業文化」として浸透させ、コンサルタント一人ひとりに使命感を持たせることで、変革を実現する組織を築いているのです。

世界基準のスキルを証明する「EY Badges」プログラムの全貌

EYの人材育成を語る上で欠かせないのが、「EY Badges」プログラムです。これは従業員が新しいスキルを獲得したことをデジタル認証で可視化するシステムで、世界160カ国以上のEY拠点で導入されています。

この仕組みの最大の特徴は、スキルの「見える化」と「民主化」にあります。役職や部署に関係なく、誰でも自らの興味に応じてスキルを磨き、グローバルに通用する証明書を得ることができます。

バッジ領域学習テーマ主なスキル例
テクノロジー領域データ・AI・RPAデータ分析、Python、AI活用
リーダーシップ領域組織運営・人材育成変革的リーダーシップ、戦略思考
サステナビリティ領域ESG・環境経営カーボンマネジメント、CSR戦略

各バッジには「ラーニング」「ブロンズ」「シルバー」「ゴールド」「プラチナ」の5段階があり、上位になるほど実践経験や他者への貢献が求められます。単なる座学で終わらせず、「学び→実践→共有」という循環型の成長モデルが設計されています。

このプログラムの効果は定量的にも明らかです。EYによる調査では、バッジ取得者の約72%が「業務への自信が高まった」と回答し、約65%が「昇進や新プロジェクト参加に繋がった」と報告しています。特にデータサイエンスやAI分野のバッジは需要が高く、グローバル市場での競争力を大きく高めています。

さらに注目すべきは、このバッジがLinkedInなど外部プラットフォームでも認証として共有できる点です。これにより、個人の専門性が企業の枠を超えて評価されるようになりました。EYが進めるこの仕組みは、従業員に「自分のキャリアを自分でデザインする力」を与えています。

加えて、バッジ制度はゲーム的要素を取り入れ、学習意欲を持続させる工夫も施されています。次の段階を目指して挑戦するサイクルは、従業員のモチベーションを高めると同時に、企業全体のスキル水準を底上げしています。

コンサルタント志望者にとって、この仕組みは極めて重要な学びです。EYが提供するのは単なる教育制度ではなく、「個人の市場価値を高める仕組み」そのものです。スキルを体系的に証明し、グローバルに通用するコンサルタントへと成長するための道筋が、EY Badgesによって明確に描かれているのです。

無料でMBA取得?EY Tech MBA by Hultの真の価値

EYのリーダー育成戦略の中でも特に注目されているのが、「EY Tech MBA by Hult」です。これは、ハルト・インターナショナル・ビジネススクールと提携して開設された、世界初の完全無料・オンラインMBAプログラムであり、EYの全従業員が役職や地域を問わず受講できます。

このプログラムは、単なるオンライン学位ではありません。EYが掲げる「変革的リーダーシップ」を実践的に育てるために設計されており、テクノロジー・リーダーシップ・ビジネスの三領域を横断的に学ぶことができます。受講者は、EY独自の「EY Badges」で取得したスキルを統合し、最終的にはハルト校の認定MBAを取得できる仕組みです。

学習要件内容特徴
EY Badgesの取得16種類のバッジを取得テクノロジー・リーダーシップ・ビジネス分野を網羅
学習時間300~1,500時間自分のペースで進められる柔軟設計
キャップストーンプロジェクト実務課題の解決EYの実案件に基づいた実践型課題
修了期間最短18ヶ月~最長6年長期的キャリア形成に対応

特筆すべきは、世界中のEY社員に平等に開かれた「学びの機会」であることです。EYの平均年齢は28歳前後と若く、従業員がキャリア初期にMBAを取得できる環境は、他のコンサルティングファームと比べても極めてユニークです。この制度は、EYを離れることの機会損失を高める「黄金の手錠」としても機能しており、優秀な人材の定着に大きな効果をもたらしています。

ただし、外部評価では課題も指摘されています。米国のビジネススクール専門誌Poets&Quantsによると、2022年時点での卒業者は全体の0.02%未満(わずか55名)と報告されています。理由としては、学業と業務の両立の難しさ、オンライン特有の継続率の低さ、そしてハルト校が世界トップランク校ではない点などが挙げられます。

それでも、このプログラムが持つ意義は計り知れません。EYはこのMBAを通じて、「学びをキャリアの中心に据える文化」を築こうとしています。単に学位を取ることが目的ではなく、テクノロジーやサステナビリティといった新時代のテーマを通じて、社員一人ひとりが社会変革の担い手となる力を養うのです。

無料でありながら、実務直結・世界認定・柔軟学習という三拍子が揃ったEY Tech MBAは、まさに「次世代コンサルタントのための学びの革命」と言えるでしょう。学び続ける力を持つことこそ、これからのコンサルタントにとって最大の武器です。

日本のEYに見る、実践的リーダー育成の仕組み

グローバルな理念を掲げるEYですが、日本における育成体制は「現場で使える実践型」として独自の進化を遂げています。EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(EYSC)とEY新日本有限責任監査法人を中心に、グローバルの理論を日本の文化・市場環境に適応させた多層的な仕組みを構築しています。

EYSC:現役コンサルタントによるリアルな研修

EYSCの研修の特徴は、現役コンサルタントが講師を務める実践主義にあります。研修は新卒向けの基礎スキルから始まり、データ分析・仮説構築・資料作成など、実務直結のカリキュラムが展開されています。さらに、トライ&エラーを奨励するマインドセット育成や、チームワークを重視した演習も多く、単なるスキル学習を超えて「プロフェッショナルとしての姿勢」を養う構成です。

EYSCでは階層別に求められるスキルセットを定義し、以下のような成長ステップを設けています。

ランク主な役割育成テーマ
コンサルタント分析・資料作成論理的思考・実行力
シニアコンサルタントプロジェクト推進リーダーシップ・仮説検証力
マネージャーチーム統括クライアントマネジメント・戦略立案力
パートナー経営・案件獲得ビジネスデベロップメント・業界洞察力

また、EYSCは資格取得支援や博士号取得制度まで整備しており、「キャリアを学びながら積み上げる」ことを可能にしています。

EY新日本有限責任監査法人:三本柱の育成モデル

EY新日本有限責任監査法人では、育成を「Learning」「Experiences」「Coaching」の3本柱で体系化しています。

  • Learning:eラーニングや海外研修で専門スキルを習得
  • Experiences:実務を通じたOJTで経験を蓄積
  • Coaching:専任カウンセラーが中長期的な成長をサポート

特にカウンセラー制度はユニークで、上司とは別に中立的なメンターがつき、キャリアの悩みや目標を一緒に整理します。これにより、「短期の評価」ではなく「長期の成長」を重視する文化が根づいています。

さらに、グローバル共通の「LEAD」制度も導入され、社員のキャリア形成を支援。従業員からは「上司が親身に相談に乗ってくれる」「心理的安全性が高い」との声も多く聞かれます。これは、競争の激しいコンサルティング業界において貴重な環境です。

日本のEYが築いた育成モデルは、グローバルの理念を押し付けるのではなく、現場に最適化して再構築した「ハイブリッド型」です。コンサルタント志望者にとって、EYの研修体系は「理論と実践を両立する理想的な学びの場」と言えるでしょう。

コンサルタントとして成長するためのキャリアパス戦略

EYのキャリアパスは、「成長の見える化」と「挑戦の継続」を両立させた体系的な仕組みです。従来の年功序列や一律昇進とは異なり、実績・スキル・リーダーシップを基軸とする評価制度が導入されています。そのため、努力と結果が明確にリンクする環境が整っており、コンサルタントとしての成長スピードを最大化できます。

EYのキャリアパスは以下のステップで構成されています。

ポジション主な役割求められるスキル
アナリスト調査・分析論理的思考・Excel/PowerPoint活用
コンサルタント提案・実行支援仮説思考・チーム連携力
シニアコンサルタントプロジェクト推進問題解決力・クライアント対応力
マネージャーチーム統括リーダーシップ・戦略設計力
シニアマネージャー複数案件統括ビジネス拡張力・交渉力
パートナー経営・案件獲得経営視点・ネットワーキング能力

EYでは「次のステージに行く準備が整ったかどうか」を重視する評価制度が採用されています。これは単なる成果主義ではなく、「どれだけ組織と他者の成長に貢献したか」が評価の軸になっている点が特徴です。

また、EYの社内では「キャリアの3本柱」という考え方が浸透しています。

  • Core:専門領域を深めるスキル
  • Broad:異分野・異業種を理解する視野
  • Lead:人を動かす力と倫理観

これにより、単なる“専門家”ではなく、「変革をリードできるコンサルタント」への進化が促されます。

さらに、EYは社員のキャリア支援にも力を入れています。LEAD制度では、定期的な1on1を通じて個人の目標設定とフィードバックを行い、成長実感を伴うキャリア構築をサポートします。また、海外駐在やグローバルプロジェクトへの参加も積極的に推奨されており、「世界を舞台にキャリアを広げる」ことが可能です。

EY調査によると、同社で5年以上勤務した社員の約68%が「自分の成長を実感している」と回答しており、そのうち半数以上が「キャリア目標が明確になった」と述べています。こうしたデータは、EYの育成環境が単なる教育制度にとどまらず、個人のキャリアデザインそのものを支援する仕組みとして機能していることを示しています。

コンサルタントとしてキャリアを築くうえで重要なのは、「自ら機会を創り、学び続けること」です。EYの環境は、その挑戦を後押しし、次世代のリーダーへと導く強力な舞台となっています。

現場の声が語るEYカルチャーの光と影

どんなに制度が整っていても、実際の現場がそれを体現していなければ意味がありません。EYが注目される理由の一つは、「心理的安全性の高さ」と「人を大切にする文化」が根づいていることです。社員インタビューや外部調査からも、EYのカルチャーの実像が浮かび上がっています。

共感とチームワークを重視する文化

EYの現場では「チーミング(teaming)」という概念が重視されています。これは単なるチーム作業ではなく、「異なる背景を持つ人材が協働し、成果を最大化すること」を意味します。多様な専門家が一つのプロジェクトに参画するため、常に新しい視点と刺激が得られます。

EYの2023年度社員サーベイによると、回答者の約79%が「職場で意見を安心して言える」と回答しており、コンサルティング業界平均(約62%)を大きく上回っています。この数字は、リーダーがメンバーに耳を傾け、対話を重視している証拠です。

また、社員同士の関係もフラットです。EYでは上司を「カウンセラー」や「コーチ」と位置づけ、上下関係よりも「支援と成長」の関係を築くことを目指しています。これにより、若手でも安心して意見を発信し、チャレンジできる環境が整っています。

厳しさの中にある「変革志向」

一方で、EYのカルチャーには厳しさも存在します。納期や品質基準は極めて高く、プロジェクトでは「クライアントファースト」の姿勢が徹底されています。失敗や改善のサイクルが早く、自己管理能力が求められます。

しかし、この厳しさを支えるのが、「失敗を成長の一部と捉える文化」です。失敗経験を共有し、そこから得た学びを次に生かすことが奨励されているため、挑戦し続ける社員が育ちます。

EYカルチャーが生む人材像

EY出身者の多くは、その後スタートアップ経営者や社会起業家としても活躍しています。これは、EYが「利益を超えた目的」を常に意識させる環境を持っているからです。特に若手社員の中には、「社会課題の解決に貢献したい」「サステナビリティの推進に携わりたい」といった価値観を持つ人が増えています。

このように、EYのカルチャーは「優秀さより、誠実さと共感力」を重視します。結果を出すだけでなく、人を動かし、信頼を築くことが評価される職場。それがEYという組織の最大の強みであり、同時に「変革を起こすコンサルタント」を育てる土壌なのです。